「泰山タイル」は、大正から昭和にかけて日本のモダン建築で愛用された京都産の美術タイル。今はもうつくられていない幻の泰山タイルをめぐる「令和・泰山タイル展」「池田泰佑 陶製モザイク展」が、泰山タイルの地元・京都で開催されています(2024年11月10日まで)。
泰山製陶所でつくられた泰山タイルや工芸品をはじめ、創始者・池田泰山の孫で集成モザイクタイル作家の池田泰佑氏の作品、さらに、泰山タイルの伝統・文化の継承を目指す令和泰山のプロジェクトの紹介など、泰山タイルをめぐる過去・現在・未来をたどる内容になっています。
かつて、日本のタイル界で一世を風靡した幻のタイル。レトロで美しい泰山タイルの世界に触れるとともに、そのレガシーを未来へつなごうとする人々の思いを感じてください。
※写真は池田泰佑氏(左)と総合ディレクターの嵯峨広造氏(中村タイル株式会社)
初出展の名品も見逃せない、泰山製陶所作品展。
泰山タイルは、大正時代に京都市南区に設立された「泰山製陶所」でつくられた建築用の装飾タイルです。創始者の池田泰山は陶芸作家でもあり、泰山タイルは美術工芸品として注目されました。
泰山タイルの最大の魅力は「色」にあると言われています。池田泰山が研究に研究を重ねた釉薬や還元焼成による窯変の妙が、泰山タイルならではの風合いを生み出します。展覧会の「過去」のパートでは、実際に泰山タイルを手に取って、釉薬や窯変による色の変化を見比べたり布目などの表面の感触を楽しむことができます。
さらに、辰砂釉が描き出す燃えるようなルビー色の「大花瓶」や静謐な雰囲気を湛える青磁斑点釉の香炉など、泰山製陶所の名品の数々が展示されており、その半数以上が今回初出展になります。
泰山タイルのDNAを継承する集成モザイクタイルの世界。
池田泰山の孫にあたる池田泰佑氏は、泰山製陶所で職人としての経験を積んだ泰山タイルのDNAの継承者です。製陶所が閉鎖された後もタイルに関わり、泰山製陶所が実用新案を取得した集成モザイクタイルの作品をつくり続けてきました。「現代」のパートでは、その作品の数々が紹介されています。
色とりどりのタイルのカケラを絵具にみたてて作品をつくる集成モザイクタイル。池田泰佑氏は長い作家生活の中で、一貫して「森の向こうに・・・」というテーマで作品を作り続けてきました。鬱蒼とした森の中に続く道、その向こうに木漏れ日のようにチラチラと見える新しい世界。それは、変化、期待、希望、癒し、未来など、見る人の心のありようを映すものでもあります。
今回の展覧会では、さまざまな時代の森の向こうを描いた作品とともに、七色の窯変の美しさを楽しめるオブジェも展示されています。
失われたタイルを現代に再構築する意味とは。
泰山製陶所の閉所とともに、泰山タイルの生産も終わりました。泰山タイルは二度とつくることができない幻のタイルです。そのタイルを蘇らせようという思いから「令和泰山」のプロジェクトがスタートしました。かつて泰山製陶所と取引があり多くの泰山タイルを所蔵する大阪の中村タイル株式会社をはじめ、泰山タイル愛好家としても名高い柏原卓之氏や池田泰佑氏など、泰山タイルに縁のある人々がこのプロジェクトに集まりました。
問題は、二度とつくれない泰山タイルを現代に再現する「意味」だったと言います。同じようなタイルを作るのでは、単なる模倣、あるいはオマージュにすぎません。泰山タイルとは何かをもう一度問い直し、その本質を現代に再構築する必要があると考えました。
展覧会最終の「未来」パートでは、プロジェクトチームのメンバーによる「令和泰山」考察の様子を映像化したコーナーや、泰山タイルの伝統や文化を未来へ継承するものとしての「令和泰山」のファースト・プロトタイピング、2023年に発見されたアインシュタイン・タイルを使った作品なども展示されています。
泰山タイルの過去・現在・そして未来をたどる展覧会。「コスパ」「タイパ」が求められる時代に、手作りのタイルに丹精込める「令和泰山」の試みを、みなさんはどうご覧になりますか。
「令和・泰山タイル展」「池田泰佑 陶製モザイクタイル展」
会期:2024年11月4日(月祝)~11月10日(日)
会場:同時代ギャラリー(京都市中京区三条通御幸町東入弁慶石町56 1928ビル
時間:12:00~19:00(最終日は17:00まで)
観覧料:当日1,000円
主催:令和泰山運営事務局 中村タイル株式会社
後援:京都府教育委員会・毎日新聞京都支局・京都新聞