映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』 “加藤さんの音楽の再評価”がこの映画の目的。

「トノバン(加藤和彦さんの愛称)って、もう少し評価されても良いのじゃないかな? 今だったら、ぼくも話すことができるけど」───前作『音響ハウス Melody-Go-Round』の完成試写会で高橋幸宏さんにかけられたこの言葉から、加藤和彦さんに興味をもったと語る相原裕美監督。調べれば調べるほど、革新的で新しいスタイルを生み出している音楽家・加藤和彦に魅せられ、その輝かしい軌跡を追うドキュメンタリー映画を制作します。

現在公開中の映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』。来阪した相原監督にインタビューし、〈なぜいま、加藤和彦のことを語るのか!?〉を解き明かしてもらいました。

 

高橋幸宏さんにいわれて、加藤さんのことをずっと考えるようになった。

―― 相原監督にとって、加藤和彦さんはどのような存在だったのですか?

ぼくが小学生低学年のころ、ザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』がすごくはやりました。それが最初の体験で、そのあとはサディスティック・ミカ・バンド。同じ人がやっているとは思わなかったですね。

―― 加藤さんの音楽を追いかけているファンというわけではなかった?

そうですね。この映画を制作するきっかけは、前作(音響ハウス Melody-Go-Round)の試写会で加藤さんとすごく仲のよかった高橋幸宏さんから「(加藤さんは)もっと評価されていい」といわれたこと。そこから加藤さんのことをずっと考えるようになって、本を読んだり、音楽を聴いたり、周りの人に聞いたりした。取材していくうちに、すごい人だと思うようになったんです。

―― 調べていくと加藤和彦という人間性やライフスタイルも見えてきたのでは?

いや、それはわからなかった。ぼくは加藤さんご自身に会ったことはないので、人間性はつかめません。映画のなかで、きたやまおさむさんが加藤さんのことをミュータントだとおっしゃっていましたが、あれだけ身近にいた人がよくわからないといっているのに、ぼくがつかめるわけがない。

ぼくが伝えられるのは加藤さんの音楽性で、この映画の目的は〈加藤さんの音楽の再評価〉。加藤さんがどれほどすばらしい音楽をつくってきたかということに焦点を当てています。

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』

 

いま撮らなければ、関わった人たちの生の声を残せないと思った。

―― 本作は加藤さんを知るさまざまな方の言葉で構成されています。

映画を観ていただくとわかるのですが、話をお聞きしているみなさんはご高齢の方が多いんです。いま撮らなければ(加藤さんに関わった)その人たちの生の声を残せない。そう思ったのでインタビュー構成にしました。

人選に関しては、ヨーロッパ三部作に関わった音楽プロデューサーの牧村憲一さんと加藤さんの最後のマネージャーだった内田宣政さんに監修をお願いし、「この人に話を聞けばいい」と教えてもらいながら選びました。お二人に(本作の)話をもっていくと、「おもしろいからいっしょにやりたいし、この話は絶対に残さないといけない」といわれましたよ。

―― 出演交渉はスムーズでしたか?

加藤さんの話なので、みなさんから快諾してもらえました。とはいえ、たくさんお話いただいても編集しなくてはいけません。(仮編集の)オフラインで6時間30分くらいになったものを2時間にする必要があるので、カットしてしまった話もあります。

―― 加藤さんを語る多くの言葉で構成している本作。監督ご自身は手応えを感じていますか?

それは、公開してみないとわからないですね。ただ、今回インタビューした人などに観ていただき、意見を聞きながら制作しているので、加藤さんと関わってきた人たちが納得できるものにはなっていると思っています。

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』

 

加藤さんの名曲を、いまのカタチで歌い継いでいく。

―― このドキュメンタリーは加藤さんをあまり知らない若い世代も観ると思います。そんな人たちに伝えたい思いはありますか?

加藤さんはメールすらなくて会いに行って話をするしかなかった時代に、どんどんスタイルを変えて革新的なことをやっていました。

今は環境がめちゃくちゃ変わっています。音楽にしても、CDというフィジカルなものが減ってサブスクなどの配信がメインになり、世界とつながっています。発信しやくなっているから、もっと新しいことができるだろうし、音楽に限らず、いろいろな仕事でもそうだと思います。この映画で加藤さんを知り、新しいことを考えるきっかけになってくれたらうれしいですね。

―― 本作のエンドロールには、若いアーティストも参加しているTeam Tonobanの『あの素晴らしい愛をもう一度~2024Ver.が流れます。加藤さんの名曲をこのメンバーで新たにレコーディングした狙いは?

歌は歌い継がれるもので、つくった人が亡くなったら歌わないということでもない。今回は「歌い継ぐ」という意味で、(加藤さんと音楽をつくってきた)きたやまおさむさんや坂崎幸之助さんなどとともに若い人にも参加してもらいました。亡くなってしまって参加できなかった高橋幸宏さんのドラムや71年当時のライブからとった加藤さんの歌声もサンプリングしています。さらに、(ミュージシャン以外の)関係者の人たちもコーラスで参加してもらっているんですよ。いまの技術だからできるカタチで歌い継いでいればいい。そう考えて制作し、エンドロールで使いました。

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』の相原裕美監督

 

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』

2024年5月31日(金)より、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、TOHOシネマズ西宮などで公開中。

公式サイト:https://tonoban-movie.jp/

ⓒ2024「トノバン」製作委員会

masami urayama

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