京都サンガF.C. 高橋 祐治 選手
J1昇格へ――炎天下のサンガタウンで厳しい練習が続いていた。汗だくでプレーする選手たちに、監督・コーチから容赦ない声が飛ぶ。ゴール前で練習に打ち込むのは、ひときわ長身の若いディフェンダー。京都サンガのアカデミーで育ち年代別代表にも選ばれてきたエリートは、経験豊富なセンターバックが多いチームで熾烈なポジション争いの渦中にいる。今シーズンはJ3、天皇杯と実戦経験を重ねて、J2リーグへ活躍の舞台を移してきた。スタメン定着へ、そしてオリンピックへ、周囲の期待も高まる。
高橋祐治、21歳。トップチーム昇格3年目の想い。
厳しさを情熱に変えて
サッカーに全力の日々。
――練習を拝見しました。
「監督は厳しい方です。特に若手に対しては。でも、あれだけ厳しく言ってもらえるというのは、本気で向き合ってくれている証拠。それに応えられるようにぼくたちも毎日全力です」
――高橋選手は、チームでどんなことを求められていますか?
「CBとしての強さはもちろん、ビルドアップも求められています。ぼくは、ロングボールを跳ね返すヘディングや対人の強さには自信がありますが、CBのプレーは攻撃の第一歩にもなるので、そこをもっと積極的にやっていくのが課題です。1本のパスを確実に通すことの大切さを感じながら、まだまだ勉強しているところです」
――ご自身のプレーで、注目して欲しいところはどこでしょう。
「CBが目立つ時って、ピンチの時が多いじゃないですか。ゴール前のぎりぎりのプレーとか。でもそういう場合、その前の段階でポジションか何かのミスをしてピンチを招いているんです。だから、目立たないCBがいい守備をしているのかなと思います。それに、後ろから試合をつくるという意味では足元もうまくないといけない。以前、森岡コーチ(今シーズン佐川印刷京都SCへ出向)に『チームの一番後ろにいる人間は一番うまくないといけない』と言われたことがあります。もっともっと練習しなければと思っています」
――森岡コーチは、高橋選手にとってどんな存在ですか?
「憧れの存在です。日本代表でのプレーをDVDで何度も見ました。ボールを失わない安心感があるし、1対1でも強いし、キャプテンシーもある。でもそれだけではないんです。ぼくは、トップ昇格はしたけれど、Jリーグの試合になかなか出られていません。テンションが下がって悶々としている時に、森岡コーチに言われたんです。『そういう悩みも辛い思いができるのも、このユニフォームを着ているからだ』。そうだ、と思いました。プロであることを忘れず、頑張ろうと思いました」
――素晴らしい方と出会えましたね。
「森岡コーチにはいろいろと指導していただきました。CBは試合全体が一番よく見えるポジションだからゲームをコントロールしろ、ボールを前線に出す時は後ろからの声で前をどんどん動かせ、と。それに、アカデミーにいた頃は秋田コーチ(秋田豊氏:元京都サンガコーチ・監督)に『CBはチームのエンジンだ』と教わりました。森岡コーチにはクールな目線を、秋田コーチには熱い気持ちを。日本代表歴代のCBです。贅沢ですね。指導者には本当に恵まれたと思います」
アカデミーで切磋琢磨。
オリンピックへ、虎視眈々。
――サッカーとの出会いは?
「小学校2年生の時に学校の体育でサッカーをして、面白いなと思ったのが始まりです。まわりの友だちに負けたくないという気持ちもあって、毎日ボールを蹴っていました。日韓ワールドカップがあったのが3年生の時。もう、サッカーが大好きでした。レアルマドリードやFCバルセロナなど海外サッカーのDVDを夢中で観ました。5年生の時には地元の滋賀県から京都紫光クラブに通うようになり、その後、京都サンガからお話をいただいて練習参加したんです」
――京都サンガでの練習はいかがでした?
「小学生では自分が一番うまいと思っていました。それが京都サンガの練習に参加すると、宮吉選手、駒井選手、伊藤選手がいて…。『全然ダメやん、オレ』って、その時は結構落ち込んだりしました」
――錚々たる先輩方です。でも、そこで挫けなかったんですね。
「プロを目指していましたから。サッカーを始めた時から、早くプロになって家族の力になりたいと思っていたんです」
――京都サンガのアカデミーって、どんなところですか?
「もうひとつの学校です。サッカーに打ち込んで人間性を磨く感じです。中学生の頃って反抗期だし誘惑も多いけれど、まわりに流されることはなかったですね。ユースに上がると寮生活で、毎日サッカー漬けでした。練習が休みの日でも、午後7時には寮に帰って食事や勉強会があるから、自由な時間がほとんどない。そんな中、ぼくは高校1年生からトップの練習に参加させてもらっていました。それがきっかけで、京都サンガでプレーしたいと強く思うようになりました」
――アカデミーの同期では6人がトップ昇格しました。杉本選手、三根選手、久保選手(BSCヤングボーイズ)、國領選手(佐川印刷京都SC)、原川選手(愛媛FC)…当時のみなさんの関係は?
「みんな自分を持っているやつばっかりですね。結構、切磋琢磨しました。練習前のストレッチも、一緒にやらず一人ひとり黙々とやっていました。みんな『あいつには負けない!』という気持ちですよ。紅白戦ではぼくは久保裕也とマッチアップしていましたけど、もうバチバチです。でも、サッカーの練習が終わるとみんなで仲良くご飯食べていました。めっちゃいい雰囲気なんです、ぼくらは」
――トップ昇格を聞いた時は、どんな気持ちでした?
「嬉しかったのと、昇格しただけではだめだという思いと、両方です。当時、久保はもうトップの試合に出ていましたし、U‐18日本代表のメンバーの中にも公式戦でプレーしている選手がいましたから。トップに上がれたからと喜んでいてはいけないなというのはありました」
――そのトップチームに昇格した年には、オーストラリアのクラブへの移籍も経験しました。
「海外に行ってみたかったんですよ! 4カ月くらいですが、すごくいい経験でした。練習は厳しくて気が抜けないし、ラグビー選手みたいな人もいるので当たりはヤバいです。何より、向こうでは自分を出さないとやっていけない。自分から積極的に話しかけたりすることはあまり得意じゃなかったんですけど、ピッチ上でもサッカー以外でも存在感を出すことは結構意識しました。短い期間だったけれど、自分自身成長したと思います」
――そして、今シーズンはJ3のJ-22でも活躍中です。これまで戦ってみて、どうですか?
「やっぱり公式戦は楽しいですね。真剣勝負なんで。J-22は基本的に全試合アウェイです。大変だけど、でも代表ってそんなスタイルでしょう。即席チームで集まって、遠征して戦う。それで結果を残さないといけない。そういう意識でやっています」
――J-22はオリンピック世代強化の狙いもありますね。チームでの戦いは?
「楽しいです。いろいろな人のいろいろな話が聞けるので、視野も広がります。守備の面ではクラブによって守り方が違うので、そこをどう共有していくかはすごく難しいところ。でもそこを合わせていく作業がまた楽しい。どう守るのか、どんどん話して理解を深めて、プレーで合わせていくという感じです。ぼく自身は、CBとして安定したプレーでゴールを守り、攻撃のチャンスには積極的にチャレンジして、チームの勝利に貢献したいと思っています」
――対戦相手はどうでしょう。元日本代表の高原選手とのマッチアップもありました。
「SC相模原との試合ですね。J3にはレベルの高い選手も多く、プレーしていて面白いです。出来たばかりのリーグで結構盛り上がっているし、サポーターも多くて、スタジアムの雰囲気もいい。AC長野パルセイロとの試合は入場者数が8,011人でした。すごいなと思いました」
――盛り上がったスタジアムでプレーしたいですよね。
「そうですね。まずは京都サンガを盛り上げないと!」
チームの昇格と世界への夢。
みんなの想いを背負って戦う。
――これまでサッカーをやっていて良かったと思うことは?
「応援してくれる人がいることです。家族、友人、ファン・サポーター、みんながこんなにもぼくを支えてくれているんだって、いつもすごく思います。特に何かあるわけではないんです。サッカーとは関係のない友だちと会っていて、別れ際に『頑張れよ』と言ってくれるとか。ぼくのユニフォームを着て応援してくれている人がいるとか。そういうことがすごく嬉しい」
――高橋選手は、ファン・サポーターのこともよく覚えていらっしゃいますよね。
「結構覚えていますね。クラブ主催のサッカー教室にも行きますが、教室で何度か会った子どもたちのことなどは、すごくよく覚えています。基本的に子どもが好きなので、子どもたちに『頑張って』って言われるとめっちゃ嬉しいです!」
――子どもたちも高橋選手が大好きだと思いますよ! では、サッカーで大切にしていることは?
「夢です。子どもの頃から海外サッカーを見てきましたし、世界一のDFになるんだとずっと思っていました。今年のワールドカップももちろん見ました。注目したDFは、ダヴィド・ルイス(ブラジル代表)、マスケラーノ(アルゼンチン代表)。彼らが活躍するあの舞台に立ちたい。そのためには、まず2年後のオリンピックに出ることです。京都サンガには代表候補の選手が何人かいますから、みんなで出られたら京都サンガも盛り上がりますよ!」
――高橋選手にとって、京都サンガとは何ですか。
「京都サンガは自分にとって…原点というか、親というか。育ってきた場所だし育ててもらった存在でもあるし。たとえチームを離れても絶対ここに還ってくる、そんな、故郷みたいな場所です」
――では最後に、ファン・サポーターへメッセージを。
「J1昇格に向けて、チーム全員が毎試合全力で戦っています。ファン・サポーターの方も一緒に戦ってください。みなさんの応援を力に、ぼくたちも力を尽くして戦い抜きます。熱い応援をよろしくお願いします!」
Text by Michio KII