展覧会「奇才 ―江戸絵画の冒険者たち―」 江戸絵画の幅広さとおもしろみをたっぷりと。

江戸絵画は流派別に語られることが多く、各流派からはみだしたものたちは異端とされ、注目されることはありませんでした。しかし、流派という既成の概念に囚われていない絵師たちは、斬新な発想で個性的な作品をたくさん残しています。そんな異端の画家たちの型破りな魅力に注目した展覧会「奇才 ―江戸絵画の冒険者たちー」。現在、あべのハルカス美術館で開催されています。(〜11/8まで)

 

「この表情がかわいい」「このポーズがおもしろい」

江戸絵画をカジュアルに楽しめる展覧会。

江戸時代、奇才な絵師は各地にいました。本展覧会では全国から選りすぐった35絵師の作品を集結。地域別に「京」「大坂」「江戸」「諸国」の構成で展示しています。

 

最初のゾーンである「京」では、尾形光琳や伊藤若冲、円山応挙など有名絵師の作品が並びます。しかし、本展のテーマは奇才。王道からは少し軸をずらしたものを紹介しています。なかでも、近年絶大な人気をほこる伊藤若冲の「乗興舟」は、“若冲といえば”という概念を覆す静謐さをもち、極彩色な作品とは異なる若冲の一面にふれられる美しい作品。

 

「大坂」ゾーンには、土地柄なのかユーモラスな作品がたくさんあります。個人的なお気に入りは、中村芳中(なかむらほうちゅう)。デフォルメして表現されたモチーフはどれも愛らしく、「かわいい」とつい声にしたくなります。また、江戸時代の暮らしぶりが描かれた耳鳥斎(にちょうさい)の作品では、ユニークなポーズをとる人々が表情豊かに描かれ、思わず笑ってしまう漫画のような楽しさもあります。

 

こんな絵師がいた! 知らなかった才能と出会えるおもしろさ。

「江戸」のくくりでは、本展の目玉のひとつといえる葛飾北斎の天井絵を展示。荒々しく白波を立てる「男波」では、色鮮やかで繊細に描かれた縁絵にも目を奪われます。また、美人画などの浮世絵師として名高い歌川国芳は肉筆画を紹介。墨画の「水を呑む大蛇」は不気味な雰囲気が漂い、美人画を国芳の表面とするならば、裏面ともいえる魅力にふれられます。

 

奇才をめぐる冒険の最後をしめる「諸国」は、本展の魅力がつまったゾーン。それぞれの地域で活躍しながらも全国的に名を知られていなかった奇才に出会え、新しい才能を発見できたうれしさに心躍ります。個人的には、片山楊谷(かたやまようこく)に一目惚れ。今にも襲ってきそうな表情のトラはそこはかとなくキュートで愛くるしく、緻密に描かれた毛並みはやわらかそうに見えるのに刺さりそうな鋭さも感じます。

「奇才」という言葉は奇妙で変わり者のイメージをもたれがちですが、本来の意味は“世にもめずらしいほどの才能がある”ということ。奇才をもった絵師たちが自身の求める新しい表現を追求し、 “冒険”すると日本画はこんなに自由になる! そんなことを、会場にあるバリエーション豊かな作品たちが伝えてくれているようにも思えます。

江戸絵画の懐の大きさとおもしろさがギュッとつまった「奇才 ―江戸絵画の冒険者たちー」。これまで日本画に慣れ親しんでいなかった人にこそ、見てもらいたい展覧会です。

 

「奇才 ―江戸絵画の冒険者たち―」

期間:2020年9月12日(土)〜11月8日(土)※期間中、展示替えがあります。

火〜金/10:00〜20:00、月土日祝/10:00〜18:00

休館日:9月28日(月)、10月12日(月)、10月26日(月)

会場:あべのハルカス美術館

料金(当日):一般 1,400円、大高生1,000円、中小生500円(税込)

公式サイト:https://kisai2020.jp/

 

Text by MASAMI urayama

masami urayama

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