2024年12月13日(金)、大阪・心斎橋の「ビッグステップ」内に新たな映画館「kino cinéma心斎橋」がオープンしました。木下グループが取り組む映画館「キノシネマ」のひとつで、本館が大阪初出店。104席の「Theater1」、103席の「Theater2」の2スクリーンで構成され、前身である「シネマート心斎橋」からスクリーンや音響、座席などを一新。こだわったという座席は、長時間の映画鑑賞でも疲れないよう新型シネマイスのローバックタイプが採用されています。
12月15日(日)には、今年の6月に公開され多くの反響を呼んだ映画『あんのこと』をオープニング作品として特別上映。上映後の舞台挨拶では主演の河合優実さんと入江悠監督が登壇し、各地で上映してきた本作の反響や映画館での思い出など、多岐にわたる話を聞かせてくれました。
『あんのこと』といっしょに走った一年。
kino cinéma心斎橋のTheater1で開催された、今回の特別上映会&舞台挨拶。チケットは発売開始から3分で売り切れるほどの人気ぶりでした。本編上映後に登壇した河合優実さんと入江悠監督は大きな拍手で迎えられ、河合さんは「チケットを3分で買っていただきありがとうございます」とあいさつ。つづく入江監督も「オープニング作品に『あんのこと』を選んでいただき本当にうれしいです。この映画は6月の公開だったのですが、こうやって年末まで上映がつづいて多くのお客さんとも会えました。今年は『あんのこと』といっしょに走った一年でした」と振り返ります。
映画『あんのこと』は、フランス最大の日本映画祭「KINOTAYO (キノタヨ)映画祭」の最高賞である「Soleil d’or(ソレイユ・ドール)」を受賞。MCから受賞を祝福されると会場からも大きな拍手が沸き起こります。入江監督は「本作は〈杏という子のこと〉をみんなでいっしょに考え、丁寧にそそいでいったような映画。個人的には賞をもらっても浮かれないようにしているのですが、スタッフや俳優が評価されるのはやっぱりうれしい」と喜びを口にします。
主役の杏を演じた河合さんは今年大ブレイクし、話題作に次々と出演して注目を集め「Yahoo!検索大賞2024」では俳優部門の一位を獲得しています。「一位になったというのは、知らない人が検索してくれたから。そうやって私を知ってくれた人が、この映画を観てくれたかもしれません。(出演した)それぞれの作品が影響し合い、次に公開される作品に風が吹くこともあります。そうやって少しでも多くの人に作品を観ていただけたのは、すごくよかったと思っています」と河合さん。自身の活躍が作品への興味につながっていくように願っていました。
河合さんを通して、〈杏のこと〉を教えてもらった。
今年6月7日(金)の公開以降、入江監督は全国各地を舞台挨拶でまわり、観客からの質問に答えるティーチインも数多く行ってきました。お客さまからはとても濃い感想が寄せられたそうで、「自分の体験に引き寄せて感想をいってくださった。お客さまと話すたびに、こちらが鍛えられているような感じがありました」と入江監督。
河合さんにもたくさんの反響が届き「観たあとにいろいろ考えてくださっているからか、鑑賞後にどのような時間を過ごしたかを教えてくれる人が多い気がしています。先輩の俳優さんからも〈映画館で観たあとに長い時間を散歩して帰った〉と連絡いただき、とてもうれしかったですね」とのエピソードを披露してくれます。
本作の撮影は2022年の終わりごろ。約2年前になりますが、河合さんは「特別な体験だった」と振り返ります。演出をした入江監督は「河合さんを通して〈杏〉を見せてもらった」と述べ、「演出はほとんどしていないんです。杏という子のことがぼくにはわからなかったので、脚本に書かれていない杏の感情などは河合さんにおまかせしました」と明かします。
本作のなかで河合さんは杏として生き、過酷な人生を体現しています。特筆する演技は数々あり、なかでも杏がひとり暮らしをするシーンが印象的だったと入江監督はいいます。「(佐藤二朗さん演じる多々羅と稲垣吾郎さん演じる桐野と)3人でシェルターマンションに入り、窓を開けて外を見たとき、杏の世界が広がったという表情をして小さな声で〈すごい〉っていったのです。台本にセリフはなかったし、ぼくもそういう表情をしてほしいともいっていません。河合さんを通して、〈杏はこういうときにうれしそうな顔をするんだな〉と教えてもらえました」。
最初の映画館体験は、2歳で観た『ラストサムライ』。
今回の舞台挨拶が行われたkino cinéma心斎橋は、2024年12月13日(金)にオープンしたばかりの新しい映画館で、同年10月24日に惜しまれつつ閉館した「シネマート心斎橋」の跡地を利用しています。シネマート心斎橋を知っている入江監督は「すごく韓国映画を推していた映画館で、そういう個性があるのがミニシアターのいいところです。この映画館もこれから観客が育てていくのだと思います。次に来たときに“変な色”がついていたらいいですね」とシネコンにはないミニシアターの魅力を語ります。
河合さんは「映画館ははじまりの場所でもある」といいます。最初に出た自主映画の監督との出会いも映画館だったそうで、「ある日、映画を見に行ったら、SNSに〈今日映画館にいた人ですよね?〉と連絡がきました。特定されてちょっと怖かったんですけど(苦笑)、〈ぼくの映画に出てください〉といわれてはじめて映画に出ることになったんです」と映画館からはじまった自身の物語を披露します。
また、MCから映画館での思い出を質問されると、河合さんは「はじめて映画館で観たのが『ラストサムライ』だと聞いています。2歳だったので自分のなかで思い出をつくっちゃっているかもしれませんけど、なんとなく抱っこされながら観た記憶があるような…(笑)」と幼いころの映画体験を告白。映画館のない街で育ったという入江監督は、「映画好きのおじさんが映写機とスクリーンを持ってきて上映してくれた」のが映画の原体験だといい、「そのおじさんはのちにミニシアターをつくったんです。夢は叶うんだなと思いました」とまるで映画のような夢のある話を聞かせてくれました。
映画をつくって観てもらう感覚に気づいた。
映画『あんのこと』は、kino cinéma心斎橋オープニング記念として12月26日(木)まで特別上映されています。最後のあいさつで入江監督は「今年はこの映画とともに日本中をまわり、いろいろな人が杏や映画の登場人物のことを考えてくれました」と語り、『あんのこと』が「映画監督としての節目になった」と伝えます。
つづく河合さんも、本作が自身にとって大切な作品であることに変わりありません。「映画監督は作品が公開されると、自分の手から離れていく気がすると聞いたことがあります。わたしも『あんのこと』でその感覚をはじめて味わい、公開当日にすごくドキドキしていました。恐さも少しありましたが、うれしい感想などいろんな反響が届いてきて、映画をつくって人に観てもらうのはこういう体験なのだと気づきました。そこから時間が経って、またみなさんの前でお話できてうれしいです。今日はありがとうございました」と作品への想いと感謝を観客に届けて舞台挨拶を締めました。
映画『あんのこと』特別上映
2024年12月26日(金)までkino cinéma心斎橋で公開中。
映画『あんのこと』:https://annokoto.jp/
kino cinéma心斎橋:https://kinocinema.jp/shinsaibashi/