映画『きみの色』試写会レポート「あまりにもぴったりな3人と出会えたのは奇跡」

わたしが惹かれるのは、あなたの「色」。―――2011年に公開され社会現象を巻き起こした『映画けいおん!』などの話題作を発表しつづけ、世界からも注目を集めているアニメーション監督・山田尚子さん。山田監督の完全オリジナル長編最新作『きみの色』が8月30日(金)から全国公開されます。

山田監督が得意とする「音楽×青春」をテーマとした本作は、監督らしいみずみずしく色鮮やかな世界で登場人物たちの多様な感情を表現。そして、エモーショナルなバンドサウンドに心をグッと鷲掴みされます。

そんな作品の公開を前に、大阪で試写会を開催。山田尚子監督、日暮トツ子役の鈴川紗由さん、作永きみ役の髙石あかりさん、影平ルイ役の木戸大聖さんが登壇し、本作への想いを丁寧に伝えてくれました。

 

よく遊びに来ていた大阪で、自分の歌う曲が流れるのは夢のよう。

今回の試写会は映画タイトルの『きみの色』にちなんで、全国16カ所をまわる「16(いろ)都市キャンペーン」の一環。監督とキャストたちは各地をめぐって大阪にやってきました。最初に日暮トツ子役の鈴川紗由さんが「関西で生まれ育ったので、大阪に来られてとてもうれしいです」とあいさつし、同じく関西出身の山田監督も「久しぶりにHEP FIVEの観覧車を見て、懐かしくて泣きそうになりました」と告白。また、作永きみ役の髙石あかりさんはすでに大阪名物をたくさん食べたそうで「たこ焼きがむちゃくちゃおいしかったです!」というと、それを聞いた影平ルイ役の木戸大聖さんは「東京から大阪の新幹線でお弁当を食べてしまって、(大阪名物を)食べられなかった」と悔しそうにしていました。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会の様子

MCから各地で試写会に参加した感想を問われると、「お客さまが作品を観てくださっていると思うとドキドキします。シアターの扉越しに音楽シーンの曲が聞こえてくると、ステキなシーンをみなさんに観ていただいて、それを共有できていることが不思議でうれしく感じます」と髙石さん。

髙石さん同様に木戸さんや鈴川さんも本作の音楽シーンには思い入れがあるようで、木戸さんは「ぼくも久しぶりに音楽シーンの音を扉越しに聞いて興奮しました」と述べ、鈴川さんは「劇中歌のイントロが流れてきたときには少し緊張したのですが、よく遊びにきていた大阪で自分の歌う曲が流れているのが夢のようです」と喜びます。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会での鈴川紗由さん

 

3色が重なって白色になることに、3人の未来や希望を感じた。

映画『きみの色』は、山田監督の完全オリジナル作品。作品づくりのきっかけについて山田監督は「まだ何もない状態から作品をつくるとなったとき、“何を描きたいかな?”と自分の心に問いかけました。その結果、音楽を奏でる人たちのお話を描きたいと思って、バンドを組む話にしました」。

本作において音楽は非常に重要なファクターです。山田監督は音楽へのこだわりについて「観てくださる方に好きになってもらえる音楽でありたい、というのはとても大切です。そのうえで、劇中の3人がバンドを組んで音楽をつくることに納得していただけるよう、プロがつくったと思われない音楽をめざしました」と明かします。

劇中に「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」「あるく」「水金地火木土天アーメン」という3曲が登場するというトークになったとき、挙手して好きな曲を答えてもらう観客アンケートが突然はじまります。その結果「水金地火木土天アーメン」に人気が集中し、それを観た髙石さんは「がんばってつくった甲斐がありました!」と笑顔に。監督とキャストも納得の結果だったようです。

また、本作は音楽とともに「色」も大切な要素。山田監督は「主人公のトツ子は〈人を色で感じる〉という世界の見え方をしています。この作品の色はトツ子が見て・感じている色なので、それをどう紐解くかと考えたときに〈光を描こう〉と思いました。トツ子、きみ、ルイの3人の色は光の三原色(赤・緑・青)で構成されています。そして、光の三原色は3つが重なると真っ白になるんです。この白の部分に、3人の未来や希望など無限のものを感じました。この作品での色は、光を分解していくような感覚で描いています」と色の表現について語り、色と光の入り方がとても印象的な映像の秘密を明かしてくれました。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会での髙石あかりさん

 

アフレコ時のファッションも自分色で。

登壇しているメインキャストの3人は、1600人にもおよぶオーディションで選ばれた注目の若手俳優です。3人にアフレコでの思い出を聞くと、声優初体験だった鈴川さんは「豚鼻をするシーンで実際に鼻にティッシュを詰めたり、3人が秘密を打ち明けるシーンではアフレコブースを暗くして3人の椅子を近づけたりとか、アニメのシーンとアフレコの環境をリンクできたのでやりやすかった」といいます。

髙石さんは本職の声優さんのプロ技に驚き「鈴川さんやわたしはお腹が鳴ってしまったことがあるのですが、声優さんはお腹の具合を調節するそうです。お腹が空いていたら鳴ってしまうし、逆にいっぱいだったら喉がなるのだとか。台本のページをめくる音もまったくしないらしく、わたしたちも端を折ったり、付箋を貼ったりして工夫しました」。

また、木戸さんはアフレコ時のファッションについて「アフレコに来るときの私服に自分の色を取り入れていました。ぼくは緑なんですけど、緑色の服があまりなくて…。靴に逃げていましたね(笑)」。

ファッションに色を取り入れるのはスタッフ間でも流行っていたらしく、「スタッフさんのほうがカラフルになっていった」と木戸さん。その様子を見ていた山田監督は「とてもステキだと思いました。わたしはついついモノトーンにいってしまうのですが、この作品のおかげで色のある服を選ぶことが増えました。(ファッションに色を入れると)すごく楽しくなったので、みなさんにもおすすめですよ」と自身のファッションに変化があったことを打ち明けてくれます。

さらに3人のキャスティングについて山田監督は「オーディションで出会った3人ですけど、あまりにもぴったり合いすぎて、(キャラクターと本人たちが)そっくりなんです。はじめて3人がそろった瞬間から空気ができあがっていたから、この役のために生まれて来たのではないか?と思えるほど。奇跡的な出会いができました」と絶賛します。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会での木戸大聖さん

 

やっぱり、みんなで歌って音をかき鳴らすバンドのシーンが好き!

今回はティーチイン試写会のため、クロストークのあとに観客からの質問を受け付けました。観客から多くの手が挙がるなか、最初に選ばれた方の質問は「自分の色が見えないトツ子は何色だと思いますか?」というもの。

まず山田監督が「精神的な受け取り方ができる作品で、色を描いておきながら言うのが恥ずかしいのですが…いちごミルク色。ミルク! って感じがするいちごミルクですかね」と答え、トツ子役を演じた鈴川さんは「トツ子は情熱的でパワフルなイメージがあるけど、弱い部分もある。ピンクではない、〈薄めの赤〉というイメージがわたしにはあります」と回答。髙石さんが「赤に白を混ぜたみたいな…。それがピンクになるのか、パステルカラーになるのかわからないのですが。監督がいういちごミルクみたいに、赤に白がまざっているのは確かにそうかもと思いました」と悩みながら答えると、木戸さんは「ぼくもそう思います」とつづき、笑いを誘っていました。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会の様子

次の観客からの質問は「山田監督からの演技指導について」。ここで山田監督から髙石さんへ不思議なオーダーがあったことが判明します。「監督から〈湿気感〉といわれて、アフレコでも、レコーディングのときでも“湿気、湿気”と唱えていました(笑)。きみを演じるうえでの核になっていたので、先ほど(質問者から)湿気感が伝わるといっていただけてうれしかったですね」と髙石さん。鈴川さんはノリノリで歌うシーンで迷っていたときに、監督がブースに来て演技指導してくれたことを語り「体当たりでやってみたら監督がすごく笑ってくれました。それがとてもうれしかったし、演技をするうえでの不安をなくしてくれた。自分の殻を破れた瞬間でした」。木戸さんはオーディションのときを振り返り「ゴールデンリトリバーという例えをされて腑に落ちました。すごく大きいけどやさしい気持ちをもっている男の子なんだなと思って、そういうふうに役づくりをしました」といいます。

最後の質問ではかわいい女の子が「お気に入りのシーンはどれですか?」と問いかけます。「いっぱいあるよね」とみんなが悩むなかで髙石さんが先陣を切り「やっぱりみんなで歌って音をかき鳴らすバンドのシーン。レコーディングのときには気持ちが入りすぎて涙があふれました。ステキな音を楽しみに劇場で見てもらいたいと思えるシーンです」。鈴川さんは「クリスマスにきみちゃんの感情があふれだすところです。息をのむくらい美しくて、これは観ていただかないと伝わらない美しさ。わたしはそのシーンが一番好きです」とキラキラとした笑顔で語ってくれます。

木戸さんは思春期ならではのシーンをあげ「トツ子がきみちゃんとルイくんに“名前で呼んでいい?”って聞くところが、すごくかわいくて好きです。あの年ごろは仲良くなった子の名前を呼ぶことが少し恥ずかしかったりするから、どのタイミングで呼べばいいのか考えてしまったりする。ぼくも、そういうのを通ってきたました。そして、トツ子が〈名前を叫ぶ〉という方法を選んだところも好きですね」。最後になった山田監督はお気に入りのシーンは全部としたうえで「自分がひとりのお客さんとして観たら、お花がいっぱい咲いている中庭でトツ子がジゼルを踊るシーン。そのシーンを多分好きになるんじゃないかな」と教えてくれました。

本作の公開時には、劇場で監督やキャストのお気に入りシーンを探してみてはいかがでしょうか。

映画『きみの色』ティーチイン付き試写会での山田尚子監督

 

映画『きみの色』

2024年8月30日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸などで公開。

公式サイト:https://kiminoiro.jp/

masami urayama

関連記事