『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターであり、漫画家としても活躍する安彦良和さん。その長きにわたる創作活動を展望する回顧展『描く人、安彦良和』が兵庫県立美術館で開催中です。(〜9/1まで)
北海道遠軽町に開拓民の3世として生まれ、大学で学生運動に参加したのちに上京してアニメ制作に従事。さらに漫画の世界へと創造を広げていく、安彦さんの激動の半生を振り返る展覧会です。約1,400点もの資料から受け取れる安彦さんのすさまじい画力と熱量を、ぜひとも間近で体感してください!
6つの章で、〈描く人〉安彦良和の創作活動をたどる。
今年で喜寿(77歳)となる安彦良和(やすひこ よしかず)さん。これまでも特定のジャンルに注目した個展はあったそうですが、少年期から現在までの創作活動を網羅した大規模な展覧会は今回が初の試みです。広大なスペースに並んでいるのは、約1,400点もの資料や作品。半世紀以上も創作しづけるレジェンドの手によって緻密に描かれている作品たちからは、展覧会のタイトルどおり「安彦良和とは、描く人である」というメッセージが強烈に伝わってきます。
本展は大まかな時代とジャンルによって分類された6つの章で構成されており、第一章のテーマは〈北海道に生まれて〉。北海道遠軽町に開拓民の3世として生まれた安彦さんの、創作の原点が垣間見られます。そのひとつが『重点整理帳』と名づけられた中学校三年生時の作品。授業の要点をまとめた学習ノートで、社会や理科などがイラストとテキストでわかりやすく整理されています。視覚化して理解を深める学び方のお手本のような資料は、このまま出版してもいいのでは? というクオリティ。安彦さんが少年期から高い技術と構成力をもっていたことを証明します。
つづく2章〈動きを描く〉では、虫プロダクションの養成所に入ってアニメーションの道へと進んだ作品を展示。『わんぱく大昔クムクム』のキャラクター初期案、『宇宙戦艦ヤマト』の絵コンテ、『勇者ライディーン』や『無敵超人ザンボット3』のポスター用イラストの原画などが並び、アニメ好きの心をおどらせます。作品からは安彦さん独特の色気をおびた色使いやドラマティックな構図がすでに見られ、ここからガンダムへつながっていくのだなと感じとれます。
新しく発見されたポスターイラストラフ案も展示!
〈カリスマ・アニメーターの誕生〉と名づけられた第3章は、いよいよ『機動戦士ガンダム』の世界へ。花形アニメーターとして注目を浴びるようになった安彦さんがキャラクターデザインとアニメーションディレクターを務めたアニメシリーズは、社会現象を巻き起こすほど人気を獲得しています。第1話は1979年4月7日に放送され、2024年で45周年を迎えた作品ですが、現在でも色あせずに数多のファンから愛されつづけています。
展示されているのは、ポスター用イラスト原画やガンダムをはじめとした登場キャラクターのデザイン案、アニメーション原画など大量の資料たち。ファン垂涎の作品を目の前でじっくり楽しめます。個人的には、映画『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』の宣伝用ポスターイラスト原画と対面できて感動しました。
また、広く知られている劇場版『機動戦士ガンダム』の宣伝用ポスタービジュアル。その原画とともに、新たに発見されたイラストラフの展示が世界ではじめて公開されています。アムロ・レイが凛と立つ採用案とは異なる案も紹介されているので、ぜひ注目してみてください。
漫画にアニメに、創作しつづける安彦良和の現在。
第4章〈アニメーターとして、漫画家として〉は、アニメーション監督としてアニメに軸足を置きながら、小説家・漫画家としての活動をはじめた安彦さんの創作を紹介しています。
もともと漫画家志望だったという安彦さんは、1979年に『アリオン』で漫画家デビュー。展示されているアリオンの本文原稿を見るとわかるのですが、安彦さん漫画の構成はとてもアニメーション的です。ダイナミックなコマ割りと躍動感のあるキャラの動きは、静止画で見てもアニメとして動き出すような感覚を覚えます。
つづく第5章は〈歴史を描く〉。漫画に専念するようになった安彦さんは日本の古代史や近代史といった、歴史を題材とした安彦作品にスポットを当てます。古代史シリーズの『ナムジ』『神武』、近現代史シリーズ『虹色のトロツキー』、北海道を舞台に開拓当時の日本を描く『王道の狗』などのイラスト原画や本文原稿からは歴史に翻弄された人たちの生の躍動が感じられ、〈その時代、確かにそこに生きた人々がいた〉ことが伝わってくるようです。
最後となる第6章で紹介するのは〈安彦良和の現在〉。漫画家に専念していた安彦さんが再びアニメーションに関わるようになった『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』OVAの設定ラフや決定稿、さらには2018年から連載を開始した日本近現代史シリーズ最新作『乾と巽―ザバイカル戦記』のカバーイラスト原画や本文原稿など、喜寿(77歳)を迎えようとする今なお精力的に創作しつづける安彦さんの作品群が展示されています。
気がついたら、子どものころの夢をかなえていた。
オープン前の6月7日にはメディア内覧会が開かれ、安彦良和さんも登壇。あいさつでは人生を振り返り、「子どものころに人からいただいた漫画本を見て、“このようなものを自分も描きたい”とたわいない夢を抱いていました。大人になるとそういっている場合ではなくなり、先生になろうと大学に行ったらクビになってアニメーターになりました。今では漫画家になっています。遠回りしたけれど、気がついたら子どものころの夢をかなえていました」と語ります。
そのうえで、「遠回りしたおかげで長い足跡ができました。最初にこちらの回顧展を打診されたとき、“回顧展ですか? まだ仕事をしているんですけど”と思わず聞いてしまいましたが、回顧展とは〈足跡をたどるもの〉だそうです。こんなに大きな会場で足跡をたどっていただける、そうそうできるものではありません。大変ありがたく、感謝しております」と本展への想いを伝えてくれました。
「描く人、安彦良和」
会期:2024年6月8日(土)〜9月1日(日)
開館時間: 10:00〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで。
休館日:月曜日 ※7月15日(月・祝)と8月12日(月・振休)は開館。7月16日(火)、8月13日(火)は休館。
会場:兵庫県立美術館
入場料(税込):一般 1,900円/大学生 1,000円/高校生以下 無料/70歳以上 950円/障がい者手帳をお持ちの方(一般) 450円/障がい者手帳をお持ちの方(大学生) 250円