「病いと生きる。希望と生きる。写真展」 笑顔と言葉に向き合い、医療の課題を知る。

がん患者とその家族、がんサバイバー、支援者、医療関係者などを写真家のハービー・山口さんが撮影した写真展「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」が大阪市北区・ルクアイーレ内の「梅田 蔦屋書店」で開催中です。(〜3/31まで)

 

被写体の「明日のしあわせ」を願って、シャッターを切った。

医療が発達した現在でも、〈治療法が見つかっていない〉〈有効な薬が開発されていない〉希少疾患は存在し、〈欧米で承認されているのに日本では承認されていない〉薬もたくさんあります。「病いと生きる。希望と生きる。写真展」は、これら医療領域の課題を多くの人に知ってもらうために企画された啓発イベント。日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本癌治療学会、CancerXの協力を得て、日本製薬工業協会が主催しています。

会場に展示されている写真はすべて写真家のハービー・山口さんが撮影したもので、被写体はがん患者やがんの治療にあたっている医療関係者たちなど。さまざまな立ち位置から病気と向き合い、希望を失わずに挑戦している姿をとらえています。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」の会場の様子

 

会場でモノクロームの写真と向き合っていると、どの写真もやさしさをまとっていることに気づきます。モデルとなった人々の、内なる個性が見えるような表情にはおだやかで雄大な空気が流れ、観る人をあたたかく包み込んでくれるのです。

初日に開催されたオープニング発表会で、撮影したハービー・山口さんはその答えを教えてくれました。「ぼくは被写体の〈明日のしあわせ〉を願ってシャッターを切ります。それがいいバイブレーションとなって被写体に伝わり、よい表情になるのではないでしょうか」。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」オープニング発表会でのハービー・山口さん

 

発表会には被写体となった方々も登壇し、大阪大学 消化器外科の高橋剛さんは「ハービーさんから〈手術が終わってホッとした気持ちと、それを患者さんやご家族に伝えるときの笑顔をください〉といわれました。普段は意識せずにやっていることが写真になって、自分はこんな顔をしているのだなとわかりました。すてきな写真にしていただきありがとうございます」と感謝を伝えます。

同じく写真に登場しているダカラコソクリエイト発起人・世話人 / カラクリLab.オーナーの谷島雄一郎さんは「ぶっちゃけますけど」と前置きして「最初に企画書をいただいたときに〈笑顔でお願いします〉と書いてあって、なんで患者に笑顔を強いるの? つらい状況の患者が笑顔になることによって自分たちが救われるから、笑顔の写真がほしいんでしょと思った」と当初は違和感があったことを打ち明けます。しかし、いざ撮影となったとき「ハービーさんが〈写真を撮るときはその人の幸せを願う〉とおっしゃってくれ、(撮影で)お互いの幸せを願い合う関係ができた」と振り返り、谷島さんらしい笑顔のポートレートが完成したことを喜びます。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」オープニング発表会での谷島雄一郎さん

 

それぞれの写真には被写体になった方々のメッセージが添えられ、言葉でも想いが伝えられています。ぜひ、それぞれの写真と対峙して写しされた表情や言葉に込められた想いを受け取り、〈病いと生きる。希望と生きる〉ことを自分ごととして考えてみてください。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」の会場の様子

さらに会場では、来場者がガーベラのステッカーを貼って「HOPE」という言葉を完成させる企画も行っています。ガーベラの花言葉は「希望」。カラフルな希望が写真展を盛り上げます。

会場では来場者がガーベラのステッカーを貼って「HOPE」を完成させる企画も。

 

写真展を通して、医療の社会的課題に目を向けてもらえれば。

東京・大阪と開催している本展は、治療法が確立されていない病気があるなどの医療領域の課題を多くの人に知ってもらうこと、そして治療法が見つかる日を信じて病気と向き合っている方々の姿と想いを通して〈病気〉が特別なことではなく、身近なものだと感じてもらうことを目的としています。

初日のオープニング発表会・トークセッションで医師の高橋さんは「私が取り組んでいるジスト(消化管間質腫瘍)は10万人に1人・2人といった非常に希少ながん。薬剤治療も不十分で、欧米で認められている薬が日本に入ってきていない状況もあります。この写真展で(医療の課題に)目を向けてもらえればありがたい」と語ります。

さらに、高橋さんが主治医だという谷島さんは「ジストの患者として12年間治療しています。完治がむずかしい状況で、私も新たな治療薬の開発を待ち望んでいるひとりです。医療の発達によってがんと日常生活の両立は可能になっていますが、がんと社会って遠いんです。当事者と専門家だけでは社会の課題は解決できないので、ダカラコソクリエイトなどでいろいろな方とコラボレーションをしてがん経験を新しい価値に変える取り組みをしています。今回も、写真というクリエイティブを使って社会と関わりをつくっていく取り組みに参加できてうれしいし、今後も広がっていってほしい」と写真展を通じた啓発に期待します。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」オープニング発表会での高橋剛さん

 

主催である日本製薬工業協会の上野裕明会長は、「私たちは希少疾患にも着目をして、日々、研究開発に取り組んでいます。ただ、薬剤の研究開発はすごく時間かかります。ある患者さんから〈自分の存命のうちに治療薬ができるのはむずかしいかもしれないけれど、研究開発が取り組まれていることを聞いただけでも自分たちの希望につながる〉といわれたことがあります。病いになっても希望を忘れず、社会全体で手を携えてみんなで生きていく。そのことが何より重要だと改めて感じました」と自身の体験を踏まえた思いを述べ、「ハービー・山口さんが撮った写真は一枚一枚にメッセージがあります。この写真展を通じて病気というものへの理解を深め、医療従事者たちと患者さんの想いに共感していただきたい」とのメッセージで締めくくりました。

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」オープニング発表会での日本製薬工業協会・上野裕明会長

 

 

「病いと生きる。希望と生きる。写真展~まだ見ぬ答えを、生み出す未来へ~」

期間:2024年3月25日(月)〜3月31日(日)会期中無休

入場時間:10:30〜21:00

会場:梅田 蔦屋書店(ルクアイーレ9階)

入場料:無料

会場サイト:https://www.jpma.or.jp/thema/photo_exhibition/index.html

公式サイトにも、写真とメッセージが掲載されています。

masami urayama

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