京都下町で愛される実在のカフェを舞台に、〈人生のやり直し〉をほっこりと人情味たっぷりに描いた映画『事実無根』。現在、大阪シアターセブンにて先行公開中です。
12月3日(日)には舞台挨拶が実施され、主演の近藤芳正さん、村田雄浩さん、東茉凜さん、さらには柳裕章監督が登壇。司会者の三谷昌登さんとともに、和気あいあいとしたトークを聞かせてくれました。
タバコを吸っていたら「映画にでません?」と声をかけられた。
先行公開として、大阪シアターセブンにて一週間だけ上映している本作。いち早く作品を鑑賞しようと集まった満席のお客さまが、近藤芳正さん、村田雄浩さん、東茉凜さん、柳裕章監督を迎えます。最初のあいさつで柳監督は「助監督という仕事を長年やってきて、人に寄り添うということを考えることが多かった。それで学んだのが、関西弁を通しての交流です。とくにお父さん・お母さんが子どもに対していう関西弁が大好きで、その関西弁のやわらかさを伝えることにチャレンジしたくてこの映画を撮りました」と本作の根幹をなす思いを伝えます。
この日の司会を担当したのは、俳優・脚本家の三谷昌登さん。「この映画には関わっていないのですが」と笑いながら、仲間たちが制作した映画の盛り上げ役を買って出ます。
今回、初の長編映画を撮った柳監督は長く助監督をやられており、NHK・BS時代劇『雲霧仁左衛門』も担当。主演の近藤さんと村田さんは雲霧に出演しており、村田さんは「ロビーでタバコを吸っていたら〈映画を撮るんですけど、でません?〉と声をかけられた」とカジュアルな出演依頼だったと明かします。声をかけた柳監督はお二人の芝居がすばらしいことを前提としたうえで「人とのつきあい方が分け隔てなく、スタッフにも寄り添ってくれる方々。こまっているといったら助けてくれるんじゃないかと思った」と近藤さんと村田さんをキャスティングした理由を説明します。
物語の鍵となる重要なキャラクター・大林沙耶を演じた東茉凜(あずま・まりん)さんは、オーディションで抜擢された新人俳優です。柳監督は「近藤さんや村田さんといった熟練の役者さんたちと化学反応を起こせる俳優で、相手のお芝居を受け取って相手にも刺激を与えてくれると感じました」というと、村田さんは「撮影している一ヶ月半でどんどんうまくなっていって、終盤のシーンでは役になりきった感情がそのままでていて素晴らしかった」とべた褒めします。
はじめての長編映画への出演で「とても緊張していた」という東さんを2人のベテラン俳優がもり立て、「近藤さんと村田さんがずっと現場を楽しく盛り上げてくださっていました。近藤さんとはお食事もごいっしょしてもらいました」と感謝します。とはいえ、食事会で近藤さんはあまり話をしなかったそうで「誘っておきながらあまり会話せず、緊張させてしまいました。すみません!」と詫びを入れる一場面もありました。
みなさんの意見で、この映画はもっとよくなる。
今回の舞台挨拶には、出演していた子どもたちも来場していました。近藤さんが壇上に呼び、映画の感想を聞くと「コメディ要素もあって、いい映画だと思いました」というしっかりしたコメントが飛び出します。子どもから監督への花束を贈るシーンもあり、会場に本作のような“ほっこりムード”が流れます。
つづいて話題が「思い入れのあるシーン」になると、近藤さんは〈東さんとアポロチョコのシーン〉を挙げ「台本にはなかったシーンでおもしろかった。どんな意味があるのですか?」と監督に質問。柳監督は「意味はあるといえばあるんですけど、とくにはなくて…」と言いよどむと「意味ないんかいっ!」と総ツッコミを受けます。監督は謙遜していましたが、アポロチョコの筒は最後に印象的な登場をするので、ぜひ注目してください。
また、締めとなるあいさつでは柳監督が来年・2024年に映画祭への出品と一般公開をめざしていると発表し、「この作品はまだ直す余地があると感じています。今回の特別先行上映を観たみなさんの意見でもっとよくなると思っているので、率直な感想を聞かせてください」とお願い。近藤さんも「今日ご覧になった方、一人ひとりのチカラが重要です。おもしろかったと思っていただければSNSでもいいですし、近所の床屋さんや酒屋さん、魚屋さんなどで広めてください」と本作らしい昭和を感じさせる宣伝をお願いしていました。
〈インタビュー〉ホームドラマでもあるけど、おしゃれなフランス映画のような匂いもある。
舞台挨拶のあとには監督・出演者取材が実施され、近藤芳正さん、村田雄浩さん、東茉凜さん、柳裕章監督に話を伺いました。
お茶をしようとぶらりと入ったのが、カフェとの出会い。
―― 今日の舞台挨拶はいかがでしたか?
村田さん「雰囲気が最高でした。これまでも何回かこちら(大阪シアターセブン)で舞台挨拶をしてますが、毎回、あたたかいお客さんだなと感じています」
東さん「今回がはじめての長編映画なので東京のお客さんとの違いはわからないのですが、慣れていないわたしが何をいってもみなさん笑顔で受け入れてくれます。それが(大阪シアターセブンのある)十三の魅力なのかな? と思いました」
―― 本作は京都に実在するカフェで撮影しています。
柳監督「映画の話があって、どこにしようかと考えていたころにお茶をしようとぶらりと入ったのが出会い。カフェと公園が隣り合わせになっていて、公園にいる村田さんと店内にいる近藤さん、アルバイトしている東さんがひとつの絵で撮れる素晴らしい構造で、マスターの人柄もいい。映画で近藤さんがかぶっている赤い帽子は、実際のマスターからお借りしたもの。本当に居心地がいいカフェで、あそこで近藤さんがマスターをやるイメージがパッと湧きました」
―― 実在のカフェでも子どもたちは遊びに来ているのですか?
柳監督「実際のカフェには遊び道具がおいてあって、子どもたちが借りにきています。悪さをしてマスターに怒られると〈ごめんなさい。もうしないから入れてください〉って反省文を書いた手紙をもってきたりもするんです。映画のなかの子どもたちのセリフ〈ドラえもんの鈴を入れて〉や〈ハトの餌をちょうだい〉は、実際にカフェへ遊びに来ている子どもたちがいった言葉。マスターから聞いて取り入れました」
―― 映画では「そのうちcafé」という店名。〈そのうち〉という言葉の響きもいいですね。
近藤さん「〈そのうち〉って、人生の途上というか、人間の修行中のような感じもありますよね。我々はいい歳だけど死ぬまで修行中で、そうやって生きていくんだと思っています」
村田「ぼくが演じている大林の最後のセリフは〈そのうちな〉なんですよ。実は台本では違っていて〈生きてたらな〉だった。でも、この映画のテイストとしては、ちょっと重いかなって感じていて。そんなときに方言指導の方から〈そのうちな、はどうですか?〉と提案され、いわれた瞬間にいいなと思って監督にいいました」
近藤さん「大林の最後のセリフとそのうちカフェはつながっていたのか…いま、気づきました(笑)」
お二人の芝居で愛情がすごく伝わってきたから、愛情で返せるように表現した。
―― 主人公たちは嘘に振り回される人生を歩んでいますが、淡々と生きているようにも見えます。そういう演技を監督が求めたのですか?
柳監督「いえ、ぼくは目の前の演技を見せてもらっているだけでした。おもしろいからずっと見ていたくて、細かくカットで割ることもしていません。お客さんも同じ気持ちになるだろうと思ったので長回しで撮っています」
村田さん「監督はカットをかけないんですよ。(近藤さん演じる)星の家でピザを食べるシーンでもずっとカットがかからなくて、最後までいきました(笑)」
―― 脚本を担当された松下隆一さんは「昔ながらのホームドラマをめざして書いた」とおっしゃっていますが、みなさんは脚本を読まれてどのような印象をもったのですか。
近藤さん「単純におもしろかったですね。ホームドラマでもあるけど、おしゃれなフランス映画のような匂いもあたったりして、〈これをやれるのは幸せだな〉と思いました。ただ、セリフが多くて、覚えるために家で缶詰状態になっていました」
村田さん「関西弁にも敏感になりました。監督がいう関西弁のよさを伝えるためには気持ちが入っていないと意味がありません。気持ちを乗せて力技でやったところもあって、関西の方にどう聞こえるのか心配。ちょっと申し訳ない感じもあります。あと、脚本ということでいうと、東さんはわたしが脚本を最初に読んだときの印象のまま、存在してくれていました。それは俳優が一番にもっていなければいけないもの。そこに存在して、立っているだけで大林沙耶のバックボーンがにじみでてくる感じがあって、〈きっとこの子には何かあるんだろうな〉というのがわかります。わたしもすごく刺激をもらって、近年で一番心を揺さぶられた仕事になりました」
東さん「ありがとうございます。近藤さんと村田さん、それぞれの愛情がお芝居ですごく伝わってきました。それを受け取ろうとするのではなく、愛情で返そうと表現しました。お二人がいたから、わたしは大林沙耶ができたんです」
――「事実無根」というタイトルに込められた意味は?
柳監督「最初は法廷ものをつくろうとしていました。でも、もっと身近な冤罪というか、〈なんで人は嘘をつくのか〉〈本当のことって人によって違ったりするんじゃないか〉ということをテーマにして、身近な事実を作品にしたらおもしろいのではと考えました。そこから脚本の松下さんと話を膨らせ、この映画になりました」
映画『事実無根』
2023年12月2日(金)から12月10日(日)まで、大阪シアターセブンにて先行公開中。
■公式サイト:https://jiji2mukon.com/