映画『銀河鉄道の父』知っているようで知らなかった宮沢賢治の家族の物語。

何があっても息子を信じて、みんなで生きた。あなたは家族の希望だから───無名だった宮沢賢治を支えた父と家族を描いた門井慶喜さんの直木賞受賞作を映像化。映画『銀河鉄道の父』が5月5日(金・祝)から全国公開されます。

息子を愛しすぎる父を役所広司さん、息子である宮沢賢治を菅田将暉さんが演じ、ダメだけどチャーミングな男たちを躍動させています。演出は、原作に惚れ込み映画化を熱望した成島出監督。家族の絶対的な愛にふれられる物語は、GWに家族と親しむことが多いこの時期にぴったりです。

 

父の視点から描く、宮沢賢治。

雨ニモマケズ、風ニモマケズ───という有名なフレーズの詩や、幻想的な童話『銀河鉄道の夜』などで知られる宮沢賢治。誰でもその作品に一度はふれた経験があり、無名のまま37歳という若さで亡くなってしまった人生も広く知られています。しかし、物語を書くまでの人生や、彼を支えた家族の話はあまり知られていないのではないでしょうか。映画『銀河鉄道の父』は、無名だった宮沢賢治と、賢治を支えた父と家族のお話です。

 

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

はじまりは、賢治が生まれたところから。質屋を営む宮沢政次郎の長男として生まれた賢治は、跡取り息子として大事に育てられます。なかでも父・政次郎の息子愛はすさまじく、幼少期に賢治が赤痢にかかって入院すると「賢治の世話はわたしがする」とつきそうほど。時は明治、男性が子どもの世話をするのをとがめられるような時代です。それなのに、「医者になどまかせられるか!」とかいがいしく世話をする政次郎。育児に関わることが当たり前になっている、現代的な父親像のはしりかもしれません。

 

そうやって全方位に愛されながら成長した賢治。これが、なかなかのダメ男子です。中学でエマーソンやツルゲーネフを学んだ賢治は、家業の質屋を「弱い者いじめ」だと言い切って継ぐことを拒否します。頭を下げて農林学校へ進学させてもらったと思ったら、人造宝石をつくる商売をはじめるといいだして資金を無心。さらには、学校を辞めて実家とは異なる宗派の宗教に生きると宣言して父親と大喧嘩し、東京へ家出してしまいます。

 

この怒涛の展開に、宮沢賢治ってバカ息子だったの!? 賢治の父親ってこんなに親バカだったの!? と新鮮な衝撃を受けます。いやいやそれはダメでしょ〜と、賢治にも、政次郎にも、ツッコミどころがたくさんあるのですが、役所広司さんと菅田将暉さんが表情豊かにイキイキと演じていてとにかくキュートです。そんなダメダメな二人を包み込む、母(妻)、妹、弟といった家族たちの寛容さも際立っていて感動的。だからこそ、その後の展開につらさが増ますのですが……。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

 

きっと宮沢賢治の物語を、また読みたくなる。

森七菜さんが演じる妹・宮沢トシは、兄・賢治の理解者です。映画でも賢治が物語を書くきっかけを与え、できあがった物語に耳を傾ける一番の読者でもあります。史実のとおり、トシは結核に倒れて24歳という若さでなくなってしまいます。あんなに溌剌としていたトシが病魔によって命の炎を小さくしていく…このときの森さんの姿がとても儚げで、ポロリとこぼれる涙も透きとおる美しさがあり必見です。

 

トシを励ますためにと一心不乱に物語を創作して読み聞かせていた賢治は、トシが亡くなると何も書けなくなってしまいます。愛する娘を失ったうえに、悲しみに打ちのめされて壊れそうになっている息子を目の前にする政次郎。「わたしが聞いてやる! わたしが宮沢賢治の一番の読者になる!」と抱きしめることで、息子に再び筆をとらせるのです───。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

その後の賢治の運命は、知られているとおりです。数々の名作を執筆するも世の中には認められず、無名のままこの世を去ってしまいます。しかし、家族はあきらめませんでした。多方面の尽力のもと没後一年後には全集が刊行され、宮沢賢治は国民的な作家になっていくのです。

 

公式サイトのトップページには、「きっと家族に、会いたくなる。」というキャッチコピーがありますが、鑑賞後にはもうひとつ付け加えたくなります。

「きっと宮沢賢治の物語を、また読みたくなる」。

子どものころに、宮沢賢治の名作を読んだことがあるという人はたくさんいると思います(わたしもそうです)。そのときも独特なリズムの文体と不思議な世界観に魅せられたものですが、大人になり、さらにこの映画を観たあとでは、見えなかった角度から物語が読み取れ、新しい感動が生まれるのではないでしょうか。

映画のラストには、心のなかにフワっと光が灯るようなシーンが待っています。家族っていいなぁ、人をまるごと愛せるっていいなぁ、そう素直に思えます。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

 

映画『銀河鉄道の父』

2023年5月5日(金・祝)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、109シネマズHAT神戸、kino cinéma神戸国際などで公開。

配給:キノフィルムズ

公式サイト:https://ginga-movie.com/

masami urayama

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