音楽ファン以外にもその存在・楽曲は広く知れ渡り、2016年の逝去後もファンを増やしつづけるロックスター、デヴィッド・ボウイ。彼が創造した唯一無二の世界を追体験できるドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』がいよいよ3月24日(金)から全国公開されます。
デヴィッド・ボウイの映像は数々残されていますが、本作はデヴィッド・ボウイ財団初の公式認定ドキュメンタリー。音楽だけでなく、何を考え、どういう言葉を発してきたか―――さまざまな方向からデヴィッド・ボウイを解明できる、これまでにないドキュメンタリーに仕上がっています。
哲学的で、詩的で、私的。純度100%の言葉たち。
ドキュメンタリー映画が、その人が創造した世界を追体験するものであるなら、本作はデヴィッド・ボウイという人間の言葉の世界を追体験していくもの。わたしは、そう感じました。
通常のドキュメンタリーであれば、アーティストの誕生からスターとして成就する足跡を当時の映像を交えてたどり、関係する人たちのコメントなどで人となりや魅力に迫っていくのが常套手段。もちろん、そういう手法が悪いわけではありません。しかし、デヴィッド・ボウイというアーティストはこの世に類似する人がひとりといない、唯一無二の“スターマン”。それゆえ、その手の話は出し尽くされているのが現状です。
本作は、ただデヴィッド・ボウイの偉大なキャリアを紹介するドキュメンタリーではありません。状況を補足するナレーションはなく、関係者へのインタビューも一切なし。観客であるわたしたちが耳にするのは、〈デヴィッド・ボウイが残した声〉だけ。それだけでも、本作がこれまでの映像作品とひと味違うことがうかがえます。
デヴィッド・ボウイは思想家です。アーティストとしての姿勢、ファッション、回想、死生観、そしてクリエイティビティについても鋭い観察眼から生まれる独自の考えをもち、それをユニークかつ奥深い言葉で発してきました。
また彼は、それまでになかったアプローチで音楽表現をしてきたため、奇異的なものと捉えられて心無い言葉を投げかけられることも幾度としてあります。そのためか(もしくはイギリス人だからか)、少しシニカルでとらえどころのない言葉遣いも好んでいたように感じます。しかしながら、デヴィッド・ボウイにかかればシニカルな言葉も、ウィットに富んでいておしゃれ。きらびやかな靴をはいた彼に、「その靴は男物? 女物? バイセクシャルのもの?」と薄笑いを浮かべながら質問する司会者に対して、「ただの靴さ」と返すセンス。大好きです!
膨大に残された資料から選りすぐられたこれらの言葉は、哲学的で、詩的で、私的。もしかしたら彼の音楽以上に彼を表しているのかもしれない…映画を観ていると、そんな感覚にも陥ります。
デヴィッド・ボウイが人生をどう見つめてきたのかを語るもの。
本作は、デヴィッド・ボウイ財団が初めて認めた〈公式認定ドキュメンタリー〉であることも話題です。監督を務めたのは、ザ・ローリング・ストーンズを扱った『クロスファイアー・ハリケーン』やカート・コバーンの『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』などの音楽映画を手掛けたブレット・モーゲン。モーゲン監督が2007年にデヴィッド・ボウイに会って、ハイブリッドなドキュメンタリーをいっしょにつくる案を話したのが、ことのはじまりなのだとか。そのときは本人から「それをやるときではない」と断りを入れられたのですが、実はデヴィッド・ボウイ自身もドキュメンタリーへの構想をもっていて生前に資料などを収集していたそう。残念ながらデヴィッド・ボウイは2016年に逝去。その試みを引き継ぐかたちで、モーゲン監督は残されている資料へのアプローチをゆるされます。そして、5年の歳月をかけて本作を創り上げたのです。
「デヴィッド(・ボウイ)は20世紀の終わりごろをどんな歴史の本より明確に記した歴史家で、文化の人類学者だったといっていい。デヴィッドの歴史にはもちろん事実、時期、情報があるが、ぼくは神話を言葉で語り伝えた昔のようなアプローチをした。この映画はデヴィッドが人生をどう見つめてきたのかを語るものだ」とモーゲン監督はインタビューでコメントしています。
実際に発せられた声で、その言葉で、デヴィッド・ボウイの生き方を追体験できる。
これまでになかったデビッド・ボウイのドキュメンタリー、本作の魅力はそれに尽きるのではないでしょうか。
もちろん音楽映画でもあり、「スターマン」「スペイス・オディティ」「月世界の白昼夢」「ヒーローズ」「レッツ・ダンス」などの不滅の名曲たちをたっぷり楽しめます。
音楽は、デヴィッド・ボウイをはじめ、T・REX、THE YELLOW MONKEYの楽曲をプロデュースしてきたトニー・ヴィスコンティがプロデュース。音響には『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞®️を受賞した音響技術者ポール・マッセイが参加し、最高の音楽環境を実現しているので、音響にすぐれた映画館での鑑賞をおすすめします。
また、個人的にぜひ読んでもらいたいのが、公式サイトのコメント。ミュージシャンの吉井和哉さんやギターリストの布袋寅泰さん、写真家の鋤田正義さんなど、デヴィッド・ボウイに影響され、ともに生きてきた人たちの愛ある言葉がずらりならんでいます。それぞれの視点で本作を語る熱いコメントを読めば、〈この映画をなぜ観るべきなのか?〉の答えもきっと見つかるはず。
映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
2023年3月24日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランドなどで公開。
公式サイト:https://dbmd.jp/
配給:パルコ ユニバーサル映画