1967年に放映されたTBSドキュメンタリー史上最大の問題作が、半世紀の時を経て現代に蘇る! 街ゆく人に〈あなたにとって日の丸とは何ですか?〉と淡々と問うていく、むき出しのドキュメンタリー、映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』が2月24日(金)から全国で公開されています。
2月26日(日)、公開を記念した舞台挨拶をシネ・リーブル梅田で開催。監督を務めた佐井大紀さんが登壇し、「なぜ今、このテーマで、この手法で、映画をつくったのか?」という疑問を解決してくれる熱いトークが繰り広げられました。
1967年の〈日の丸〉を観たとき、なんともいえない気持ち悪さを感じた。
本作のベースになっているのは、街ゆく人に突然「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友だちはいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」と矢継ぎ早に質問を繰り出すドキュメンタリー番組。寺山修司が構成を担当したその番組は、建国記念日の2日前という1967年2月9日に放映されると抗議が殺到し、閣議で問題視されるほど世間を騒がせました。
TBSの新人研修で番組と出会った佐井大紀監督は、〈現代で同じ質問をしたら果たしてどうなるのだろうか?〉と考え、街録を決行。寺山修司没後40年となる今年、映画として公開されました。
しかし、なぜ今、これをテーマに制作したのか? 舞台挨拶で佐井監督は、わたしを含めて多くの人が感じているだろう疑問に答えてくれます。
そもそものはじまりである1967年のドキュメンタリー『日の丸』。佐井監督はこの番組を最初に観たとき、「インタビューをただ羅列しているだけの映像で、ホラー映画や恐いフェイク・ドキュメンタリーを観たような、なんともいえない気持ち悪さを感じた」ことを告白します。そこから、「こんな違和感のある番組が公共の電波にのるというのは、どういうことなんだろう?」という疑問が生まれ、放映状況の特異さを知ってさらに興味を掻き立てられる。「1967年の『日の丸』は、『現代の主役』という当時話題になっていた人に密着するドキュメンタリー番組の枠で放送されたもの。例えるなら、今の『情熱大陸』の枠でいきなり〈日の丸〉をテーマにした番組を流したような状況です。そのいびつさ、ヤバさ、会社の懐の広さ、全部を含めて“おもしろい”と思いました」。
新人研修時代に『日の丸』という番組に疑問と興味をもった佐井監督。しかし、TBSではドラマ班に配属され、ドラマ制作に追われます。
そうやって5年が過ぎ、迎えた2022年。前年に東京オリンピックが開催され、3年後の2025年には大阪万博を控える状況が1967年と類似していると感じた佐井監督は、「今しかない」と自らマイクをもって町へ出ます。1967年と同じ質問を2022年の街頭で問いかけて、過去と現在の姿を浮き上がらせていく、それが映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』です。
95%の人が答えずに去っていった。
街行く人にマイクを向ける〈街録〉という手法で、淡々と日の丸に対する意識を問いかけた佐井監督。しかし、「まったく答えてもらえませんでした。身分を明かさずに質問しても、みんなびっくりして〈なんなのこの人〉となって、聞いた人の95%くらいは無視したり、罵声を浴びせたりして去っていきました」。
映画以前に製作されたTV版では、放送前にTwitterを開設。日の丸の写真を募集したものの「ほとんど反応がなかった」そう。
その反応の薄さを佐井監督は「当事者になることを回避しているのでは」と見立てます。「誰かがいっていることに対しては〈こうじゃない〉とジャッジできても、自分から発信することはあまりやりたくないのではないでしょうか。顔の見えないSNSでは何でもいえるし、逆に何もいわなくてもいい。フェイス トゥ フェイスではない距離のあるメディアで行うと、そういうものが浮かび上がってくるのだなと思いました」。
では、SNSでのコミュニケーションが主流となった現代に寺山修司がいたら、何を問うのか? 佐井監督は「ぼくの感覚でしかないですけど」と前置きしたうえで、「個人のイマジネーションで物事を破壊したり、再構築したりするのではない、〈周りがこういっているから正しいのでは〉という、ある種の文脈に寄りかかりすぎている傾向をテーマにするのでは。自分の都合のいい情報しか流れてこないSNSは、多様性があるように見えて、実はすごく単一的です。そういったSNSのある社会を寺山がどう挑発するのか? ぼくには想像できないのですが、(ほかの人とは)ちょっと違うやり方をするのではないか、という気がしています」。
酒の肴にするつもりで、身近な人と話してもらえたら。
佐井監督は現在28歳。寺山修司が28歳のころは劇団「天井桟敷」の結成前で、放送詩劇が賞を獲得するなど精力的に創作していました。同じように若くして作品制作に打ち込む2人のクリエイター。共通点があるように見えますが、寺山と自身の状況はまったく違うと佐井監督は強調します。「ぼくは本当に普通の会社員。この映画もTBSという会社があったからできました。しかし、寺山は自分の王国を自分でつくりあげています。今のぼくは寺山修司のふんどしで相撲をとらせてもらっている。その気持ちはやっぱりあります」。
確かに、寺山修司が構成をした『日の丸』という番組があったから、本作は生まれています。しかし、佐井監督の好奇心とエネルギーによって新しい視点が加えられ、現代のわたしたちが密かにもっている〈意識の箱〉を刺激してくれるのも事実です。
刺激により開いた箱からは、違和感や心地の悪さが出てくるかもしれません。でも、嫌悪も含めて、〈問うてみる〉〈考えてみる〉ことが大切なのではないか? そんなことを本作は教えてくれているように感じます。
「『日の丸』という題名だし、潜在的にみんなで話すことを避けてしまいそうになるテーマではあるのですが、酒の肴にするくらいのつもりで身近な人と話してもらえたらうれしいです。みんなが気軽に日の丸や日本という国について話せるような社会になる。そのきっかけになればと思ってつくった作品なので、身近な方に共有していただけると幸いです」。
佐井監督は観る人へのメッセージとして、〈本作を気軽に楽しんでほしい〉という願いを述べて舞台挨拶を締めました。
映画『日の丸 ~寺山修司40年目の挑発~』
シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸などで公開中。
公式サイト:https://hinomaru-movie.com/