それでも、あなたと家族でよかった。―――『8人の女たち』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』など人間関係や組織の在り方を独自の視点で映像化してきたフランソワ・オゾン監督。2月3日(金)から全国公開される最新作『すべてうまくいきますように』で取り上げたのは「安楽死」。フランスの国民的俳優として愛されるソフィー・マルソーとタッグを組み、困惑しつつも安楽死の願いと向き合う家族の視点から〈生きること、死ぬこと〉を愛情豊かに問いかけてくれます。
身体が不自由になった家族に、「もう終わりにしたい」といわれたら…。
人は必ず死にます。しかし、その多くは望んだカタチでは訪れてくれず、自分の死ぬタイミングも決められません。個人的には〈自分の死に方を自分で決める〉そんな自由があってもいいのではと思っています。とはいえ、それを愛する家族から望まれたら? 素直に受け入れる自信はありません。
今作でフランソワ・オゾン監督は〈家族の安楽死〉という重いテーマを正面から取り上げ、本人、家族、周囲の人々、それぞれの立場から見える考え方や葛藤、選択をほどよい距離感で描いています。生と死の選択を扱うとシリアスになりがちですが、そこはオゾン監督。ユーモアのある会話劇やスタイリッシュな映像を盛り込みつつ、軽やかに問いかけてきます。「こういうこともあっていいんじゃない?」と。
物語は、自由奔放に生きてきた高齢の父親・アンドレが脳卒中で倒れたところからはじまります。病院で目覚めたアンドレは右半身付随となり、思うように動けません。アンドレには2人の娘がおり、そのひとりである小説家のエマニュエルはある日、カラダの自由がきかないことを受け入れられない父親から〈終わらせてほしい〉と懇願されるのです。
アンドレは昔から聞く耳をもたない性格。気ままな父に子どものころから傷つけられてきたエマニュエルはその願いに困惑しますが、妹のパスカルとともに父親の希望をかなえることに。フランスでは法律の問題で実行はむずかしいため、スイスの協会へ連絡をとって段取りしていきます。
その一方で、安楽死を決めたアンドレはリハビリが功を奏して回復へと向かいます。車椅子で移動できるようになって、孫の発表会にでかけたり、お気に入りのレストランでおいしい料理に舌鼓を打ったり。再び生きる喜びを手に入れたかのようなアンドレを見て、エマニュエルは気が変わるのを期待するのですが―――。
人生とともに死をも謳歌する。そういう選択があってもいい?
回復し、新たな人生を楽しんでいるかに見えたアンドレ。しかし、安楽死をするという選択は変えません。その死さえも楽しんでいる風で、まるで旅行計画を立てるかのように予定を決めたりもします。
ここの描写はとてもユーモラスで軽快。上機嫌で自分の死ぬ日を決めるアンドレの姿はシュールではあるのですが、彼が自身の人生を楽しむ延長として死を選ぶのだというのがわかって悲壮感もありません。実はこの映画の登場人物で、アンドレが一番生命力にあふれています。普通に考えれば、死を選ぶ必要はありません。でも、人生を謳歌するように死も謳歌しているアンドレを見ていると、こういう選択もあっていいのかなと納得させられたりもするのです。
そう思わせてくれるのは、アンドレを演じたアンドレ・デュソリエの力が大きいのではないでしょうか。娘を巻き込むことに悪びれず、憎たらしいほど利己的な父親であるのに、その姿はとてもチャーミング。エマニュエルが「悪い父親よ。友だちならよかった」というように、父親としては最悪だけど人として面白味があるアンドレをイキイキと演じています。
もちろん、主演のソフィー・マルソーも秀逸。エマニュエルは平気な顔で無理難題をいう父親への憎しみを抱えながらも愛しており、安楽死については父親の共犯者のようでもあります。多くの葛藤をもちながら爆発したりせず、フラットに受け止める大人の女性の佇まいは自然体で美しいもの。自分が彼女の立場になったら、こうふるまいたいと思わせてくれます。
安楽死に対しての考え方に正解はありません。この映画の結末も、それぞれ捉え方は異なるのではないでしょうか。わたしは、ハッピーエンドだと感じました。
©2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES
映画『すべてうまくいきますように』
2023年2月3日(金)より、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、kino cinema神戸国際などで公開。
公式サイト:https://ewf-movie.jp/