勝手に逝った、あんたのために。―――連載開始直後からトレンド入りし、大反響を呼んだ平庫ワカのコミックを実写化した映画『マイ・ブロークン・マリコ』。
〈親友の遺骨と旅に出る〉という心に刺さるドラマを、タナダユキ監督をはじめ原作をこよなく愛するスタッフが映画として魅力的に仕上げ、漫画とは違う衝撃と救いを与えてくれます。肌寒さを感じる秋に似合う、魂が揺さぶられる一本です。
その日死んだ イカガワ マリコという人は あたしのダチだった
このセリフからでもわかるように、永野芽郁さんが演じる主人公・シイノトモヨは品のいい人間ではありません。ブラック企業に務めて仕事にもプライベートにもやる気がなく、周囲にも自分にも悪態をつきながら毎日をやりすごしています。
そんなシイノはある日、何気なく目にしたニュースで親友のイカガワ マリコがマンションから転落死したことを知ります。死亡したマリコは、幼い頃から父親に虐待され、大人になってからも恋人から暴力を受けてきた女性。どうしようもない状況に置かれ、ドクズな人間たちに人生を奪われつづけた彼女は、心と身体がぶっ壊れ、シイノという親友がいることでなんとか生きていました。
一方のシイノも自分に依存してくるマリコをうっとうしいと感じながらも、寄り添うように隣にいます。映画でも漫画でもシイノの子ども時代は詳しく描かれていませんが、彼女も恵まれた環境で育っていないことは明白で、大人になった現在も周りの人とうまくコミュニケーションが取れていません。「あたしには正直、あんたしかいなかった」というセリフで表現されているように、シイノもマリコに依存していたのでしょう。
壊れた人間と、それを修復する人間。この関係で二人は救われ、互いに生かされていたように感じます。
そんなマリコが突然、死んでしまった―――。自分の半身のような人間を失った現実をシイノはマリコの死を受け入れられないでいました。しかし、大切なダチの遺骨が彼女の人生をめちゃくちゃにした父親のもとにあることを知り、敵地であるマリコの家に乗り込んで奪い取ります。そして、自分にできることがないのかと考え、学生時代にマリコが行きたがっていた海へと向かうことを思い立つ。壊れた人間を救えなかったシイノと、壊れたまま死んでしまったマリコの、最初で最後の“二人旅”がはじまるのです。
忘れないために、生きる。
とても乱暴な言葉でいうと、この映画は喪失と救いの物語です。しかし、現実として、人は人を簡単に救えないし、救われもしません。映画のなかでもシイノは死んだマリコの骨をもって旅立ちますが、それによって何かが大きく変わるわけではなく、〈遺骨といっしょに旅をした〉という事実が残っただけです。
でも、その事実は、シイノや二人旅で出会った人々、虐待した父親に対してさえ小さな救いとなり、死なない理由になるのではないでしょうか。そして、シイノたちが生きているかぎり、マリコは忘れられない存在として心に残りつづける―――。
忘れないために生きることが、シイノにも、マリコにも、救いになりますように。そう思わずにはいられませんでした。
原作のファンだったわたしは、『マイ・ブロークン・マリコ』はとても映画的な漫画だと思っていました。だからこそ映像化はむずかしく、ファンがイメージするものとズレがあると漫画のほうがよかったと思われる危険性があります。正直、わたしもシイノを永野芽郁さんが演じると発表されたときは〈かわいすぎる〉と感じていました。しかし、不機嫌を撒き散らして生きているように見えて、根は素直でチャーミング。そんなシイノ像が具現化されていて、とても魅力的。永野さんの新しい面を発見できたのも、うれしい収穫です。
そして、個人的にグッときたのがエンディングテーマ。〈死にたい朝 まだ目ざましかけて 明日まで生きている〉と唄われるTheピーズの「生きのばし」は、この映画をまるまま表現しています。この曲が終わるまでが『マイ・ブロークン・マリコ』。ぜひ、曲と歌詞に身を委ねて、なんとなくでも明日を生きていられる理由をもらってください。
映画『マイ・ブロークン・マリコ』
2022年9月30日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OSなどで公開。