映画『よだかの片想い』この映画は、どこかにコンプレクスをもった〈みんなの映画〉。

直木賞作家 島本理生の傑作小説を映像化した映画『よだかの片想い』。顔の左側にアザがあり恋愛に消極的だった女性の“遅い初恋”を描く本作は、(not)HEROINE moviesシリーズのひとつ。〈アザをあること〉キーポイントにしつつも、そこに引っ張られず、へたくそだけど私らしく生きる等身大の女性をリアルに表現しています。

9月16日からの公開を記念し、9月18日にテアトル梅田で舞台あいさつを実施。出演した松井玲奈さんと中島歩さん、監督の安川有果さんが登壇し、それぞれが抱く作品への熱い想いを語ってくれました。

 

長い時間をかけた映画が、みなさんに届いてうれしい。

作品の上映後、3人が登場すると満席のお客さまから大きな拍手が起こります。最初のあいさつで安川監督は「(テアトル梅田は)客席との距離が近くて、みなさんのお顔もよく見えます。映画か届いたことを実感できてうれしいです」と本作が公開できた喜びを伝えます。主人公の前田アイコを演じた松井さんも「長い時間がかかりましたが、公開までたどり着けて本当にうれしく思います。(SNSなどに)みなさんが感想を書いていただいて、それを読むたびに“届いている”と感じています」と原作に惚れ込んで映画化を熱望した本作が確実に届いている手応えを感じているようです。

 

また、役づくりでは原作で書かれている情報も大切にしたそうで、「原作にはアイコの人生などが詳しく書かれています。現場に原作を持ち込んで脚本と原作を照らし合わし、アイコの気持ちを確認していました。でも、実際に演じるときは(相手役の)中島さんが投げかけてくるものをキャッチしながら、監督といっしょにつくっていきました」。

松井さん演じるアイコの遅い初恋の相手となる飛坂逢太は、自己本位で身勝手な男。女性のヘイトを集めてしまいそうなむずかしい役を演じた中島さんは、自身の役づくりは〈セリフを覚えること〉といいます。「飛坂が本の感想を延々と語るシーンがあるのですが、ああいう言葉って嘘くさくなっちゃうときもある。何段階もかけてセリフをしっかり覚えて、掃除機をかけながらでもいえるくらいになると、(飛坂として)自然に言葉がでてくるようになるし、松井さんから飛び出す芝居も返せます」。安川監督もそんな中島さんの自然な演技を絶賛し、「準備してきたセリフを話すのではなく、その場で自然にでてきたように言葉をだしてくれる。飛坂は軽くて一歩間違えたら気持ち悪い男になってしまうのに、中島さんにしかだせない味で絶妙に演じてもらえました」と感謝します。

©島本理生/集英社 ©2021 映画「よだかの片想い」製作委員会

 

ボートのシーンはふたりっきりだから、ちょっと照れた。

本作での好きなシーンを問われると、松井さんは「たくさんありますが、やっぱり最後に飛坂へ電話するシーン。原作でも一番好きなところなので、このシーンを映像化したいと思っていました。セリフや行動と、アイコの気持ちが裏腹なでドキッとするシーンではないでしょうか」。中島さんはラストが印象的だったといい、「小説は言葉の芸術ですが映画は映像作品。このシーンはアイコが開放されていくのをカラダで表現していて、映像として説得力があると思った」と、自身は登場していないこのシーンの魅力を語ります。

また、安川監督は、監督という立場から好きなシーンを選ぶのはむずかしいとしながらも、アイコと飛坂がボートに乗っているシーンをあげます。「2人の素が見えるシーンで、いつも険しい表情のアイコが笑顔全開で本当にかわいらしいんです」。実はこのシーン、ボートには役者2人しか乗っておらず、セリフも決まっていなかったそう。「松井さんと中島さんの自由な会話を音声で聴いたのですが、スーパーの袋がうまく開かないときはどうするかなんてシブい話をしていました」と監督だから知り得る撮影秘話を明かすと、中島さんも「ふたりきりだから、ちょっと照れたんだよね」と打ち明けてくれました。

©島本理生/集英社 ©2021 映画「よだかの片想い」製作委員会

 

〈アザがある人〉を演じることはしなかった。

主人公のアイコは顔の左側に大きなアザがあります。それゆえ恋愛に消極的ではあるのですが、かといって控え目な人生を送っているわけではありません。ひとりの人間として自立して暮らし、ほかの女性と同様に恋をして喜び悩みます。松井さんも「アザがある人を演じることはしなかった」ときっぱりいいます。「アザのある方からお話を聞いたりもしましたが、わたしが演じるのは原作と脚本のなかにあるアイコ。アイコの気持ちを大切にして演じました」。また、安川監督も「当事者の本やインタビューを読んでそれを心に残しましたが、この映画のアイコはアザを受け入れつつ毎日を生きている人。自立している女性として描きたかったのです。松井さんの凛としたイメージも活かして、アイコを反映していきました」。

©島本理生/集英社 ©2021 映画「よだかの片想い」製作委員会

コンプレックスはみんなある。だから、この映画は〈みんなの映画〉。

最後に松井さんから「大阪に舞台あいさつにくるのは久しぶりで、みなさんとお会いできてすごくうれしいです。『よだかの片思い』を大切に思ってもらえたら、感想をSNSなどに書いていただきたいです」と本作を見る人へのメッセージが伝えられ、続いて中島さんからも「アイコは顔にアザがある女性ですが、アザではなくても誰しもコンプレックスをもっているもの。コンプレックスを抱えた女性を描いたこの作品は、〈みんなの映画〉だと思っています。そして、みなさんのチカラで〈みんなの映画〉にしてもらえたらと願っていますので、ご家族や友人などにおすすめして、みなさんを笑顔にしてください」。さらに安川監督は「この原作の映画化を願ったとき、アザのある主人公だということで(制作を)躊躇されることもありました。いま、中島さんから〈みんなの映画〉といっていただけたように、もっと自然に映画であつかえるようになればいいと思っています。この映画を観て、何か感じたり、考えたりするきっかけになればうれしいです」と締めくくってくれました。

 

9月30日に閉館する「テアトル梅田」での最後のロードショー作品。

映画『よだかの片想い』は9月16日(金)から全国公開され、関西地域ではテアトル梅田やなんばパークスシネマなどで公開されます。そして、9月30日をもって32年の歴史に幕を下ろすテアトル梅田での最後のロードショー作品。大阪のミニシアターを牽引してきた映画館で、ぜひご覧ください。

最後に、テアトル梅田支配人からのメッセージもご紹介します。

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映画『よだかの片想い』は、テアトル梅田で上映する最後のロードショー作品となります。

閉館となる最後の日まで、心を込めて上映いたしますので、一人でも多くのお客さまにご覧いただきたく思います。

テアトル梅田 支配人 木幡明夫

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映画『よだかの片想い』

2022年9月16日(金)より、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、アップリンク京都

9月23日(金)より、シネ・リーブル神戸、イオンシネマ京都桂川などで公開。

公式サイト:https://notheroinemovies.com/yodaka/

 

masami urayama

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