映画『とんび』 これは僕の、みんなの〈家族〉の物語。

©2022『とんび』 製作委員会

作家・重松清さんのベストセラー小説「とんび」。昭和時代の父親と息子を描いた不器用であたたかい物語は多くの人の心に響き、これまでも映像化されてきました。

そして、人と人がつながっていくことの大切さを改めて実感している今、父親役に阿部寛さん、息子役に北村匠海さんを迎えて初映画化。映画『とんび』、2022年4月8日(金)から全国公開です。

 

阿部寛×北村匠海で描く、不器用であたたかい父親と息子の姿。

重松清さんによる「とんび」は、2003年から2004年に連載された小説。いまから20年近く前に書かれ、さらには物語の舞台は昭和です。時代としては現代とかけ離れているのですが、懐かしくはあっても古さを感じさせず、今の気持ちともリンクできる。やはりそれは、誰もが心のなかにもっている〈家族の物語〉だからなのではないでしょうか。

 

小説「とんび」は幾度か映像化されていますがどちらもテレビドラマで、今回はじめて映画化が実現。主人公である父・ヤスを阿部寛さんが演じ、ダイナミックさとチャーミングさを織り交ぜて〈昭和時代の父親〉を体現しています。その息子であるアキラ役は北村匠海さん。父親との関係に迷い悩みながら自分の人生を歩いていくナイーブな青年をまっすぐに表現しています。

2人が演じる父と息子は単なる仲よし親子ではありません。お互いを大切に想っているのにどこか素直になれず、ついぶつかってしまう不器用な親子で、その姿が愛おしくなります。阿部寛さんと北村匠海さんは見た目や雰囲気は異なるのですが、違和感なく親子として見られ、“こんな親子、どこかにいたよな”と思わせてくれるから不思議です。

©2022『とんび』 製作委員会

 

映画は、1962年(昭和37年)の瀬戸内海に面した備後市からはじまります。運送会社で働くヤスは、無骨だがやさしくて陽気な愛すべきキャラクター。幼いころに両親と離別してたことで“家族”に憧れをもつヤスは美しい女性・美佐子と結婚し、やがて待望の子どもを授かります。

旭(アキラ)と名付けられた息子はとてもかわいく、周囲の人から「とんびが鷹を生んだ」といわれるほど。幸せに暮らしていたヤス家族ですが、ある日、不幸が襲ってきます。アキラが3歳のとき、美佐子が不慮の事故で亡くなってしまうのです。

愛する妻を失ったヤスは途方に暮れますが、ヤスのまわりには人情に厚い町の人々がいます。彼らに叱咤激励され、あたたかい手を借りてアキラを育てていき、アキラはアキラで父親との関係に悩みつつも自分の道を歩きはじめるのです―――。

©2022『とんび』 製作委員会

 

父親や地域の人とのつながりを改めて考えてみたくなる。

本作の宣伝コピーは「日本一不器用な父と、皆の温かい手で、僕は大人になった――これは〈僕〉の家族の物語。」とあります。つまり、ヤスとアキラ、町の人たち、みんなが家族となって世話を焼き、助け合いながら子どもを育てていく、親と子、地域との絆を描いた物語です。

アキラより下の世代ですが、昭和の地方都市に生まれたわたしも、どこか似たような体験をしています。近所のおっちゃん・おばちゃんにかわいがられ、ときには本気で叱られて育ちました。みんな〈地域で子育てをする〉なんて意識はなく、勝手に世話を焼いてくれる第二の家族のような存在だったと思います。

そして、昭和の父親。今のように父親が積極的に子育てに参加できる状況になく、さらには子育て情報も豊富ではなかった時代、手探りで子育てしていた彼らの多くは不器用に子どもと接していたのではないでしょうか。

 

ヤスとアキラ、町の人々はスクリーンのなかの人物なのですが、わたしは本作を観ながら自分の父親や小さいころに住んでいた町のおっちゃん・おばちゃんを思い出していました。そして、懐かしさとともに、〈父親とは、近所の人とは、自分にとってどんな存在だったのだろう…〉と考えてしまいました。

 

昭和が舞台のあたたかい物語を観て、「あのころは、よかった」とするのは簡単です。

でも、映画を通して、自分と関わってきた人たちの存在を思い起こし、そのとき彼らは何を考え・何を伝えたかったのかを改めて考えてみるのも大切だと、わたしは思います。

そこから今の幸せにつながっていることに気づく。そんな気がするのです。

©2022『とんび』 製作委員会

 

映画『とんび』

2022年4月8日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OSなどで公開。

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/tonbi/

masami urayama

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