人生はフェアじゃない。だけど美しい。全米雑誌賞に輝いた傑作エッセーを映画化した『Our Friend/アワー・フレンド』が10月15日から全国で公開されます。
ひと組の夫婦とその2人の親友が、病気というどうしようもない現実に押しつぶされそうになりながらも、自分たちを見失わずに懸命に生きた日々を描いた実話。見終わったあと、心にじんわりとあたたかい感情が広がるやさしい映画です。
ひと組の夫婦と、そのふたりの親友と。
アメリカの一流雑誌『Esquire』に掲載され、全米雑誌賞を受賞したエッセーを原作にした本作。執筆したベテランジャーナリストのマシュー(マット)・ティーグの体験をベースにした真実の物語です。
主となる登場人物は3人、そのなかの2人は夫婦です。原作者でもあるジャーナリストの夫・マットと舞台女優の妻・ニコル。彼らは仕事に打ち込みながら、2人の幼い子どもを育て、上手くいったり、いかなかったりする日々を懸命に生きています。
もうひとりが、二人の親友・ディン。ニコルが出演していた舞台のスタッフだった彼は、ニコルと意気投合。彼女を通してディンとマットは出会い、マットは初対面のディンに「ジャーナリストとして世の中が変わるような記事を書きたい」と熱く語り、ディンは「スタンダップコメディアンになりたい」という夢をジョークにしてマットを笑わせて心を通わせます。そして、3人は親友になるのです。
余談ですが、個人的に気に入っているのが序盤にニコルとディンが話をするシーン。自分の好きな曲をセレクトしたミックスCD(昔はこうゆうことをよくやっていました)をディンがニコルにプレゼントし、過去に交換したセレクトをネタに軽い音楽トークをします。
ニコル「また、暗いやつ?」
ディン「あのときは、マイブラにハマってたんだ」
この会話だけで90年代洋楽ファンはクスッと笑えるのではないでしょうか。さらには、ディンが車を運転するときにR.E.M.を聴いているなど、時代や状況を表す音楽要素が適材適所で使われていてドラマにほどよい深みと軽やかさを与えています。音楽を担当するのは『(500)日のサマー』や『さよなら、ぼくのマンハッタン』を手掛けたロブ・シモンセン。この人の映画音楽にはハズレがない!と改めて思いました。
© BBP Friend, LLC – 2020
かけがえのない友がいる。それだけで生きていく理由がある。
3人が出会って10年以上が経過した2012年、マットとニコル、そしてディンの人生が一変する出来事が起こります。ニコルが末期がんに宣告され、入院してしまうのです。妻の介護とまだ幼い子どもたちの育児に追われるマットは、心もカラダも疲弊。押しつぶされそうになるなか、マットを助けにやってきるのがディンです。当時、遠く離れた場所で暮らしていたディンは、仕事も恋人もおいてマットとニコルのサポートをして生きることを選択します。
わたしは映画を観ながら、“自分ならどうするかな”と考えていました。同じ状況になったことがないので言い切れませんが、多分、ここまではできないと思います。いくら大切な友だちとはいえ、2年にもおよぶ闘病生活を支えるのはむずかしい。でも、ディンには、それだけのことをする(したい)理由があるのです。
かつて、ディンは何もかもに嫌気がさしてトレッキングに出かけたことがあります。死をも考えていたとき、何気なく入っていたマットとニコルの留守番電話を聞いて、彼は山を降ります。自分を求めている友だちがいる。生きる理由とするには十分だと、わたしは思います。
それはきっと、マットとニコルも同じだったのではないでしょうか。余命宣告を突きつけられても、限られた時間を大切な友だちに支えられながら過ごせる。ふたりにとって、ディンは前向きに生きていける理由になっていたように感じます。
My Friendではなく、Our Friend。
大切な人たちがいて、その人たちといっしょに笑いながら前を向く。
この映画を観て、人生が豊かになるひとつのヒントをもらえたような気がします。
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映画『Our Friend/アワー・フレンド』
2021年10月15日(金)より、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹などにて公開。