1985年の夏のフランス、美しい少年たちは運命的に出会い、恋をし、永遠の別れを知る。
世界三大映画祭の常連にして世界中から新作を待ち望まれているフランス映画界の巨匠フランソワ・オゾンが最新作で見せてくれたのは瑞々しいラブストーリー。
第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションにも選出された映画『Summer of 85』は、少年たちの忘れられないひと夏の恋を鮮やかに映し出しています。
たった6週間。でも、人生のすべてがつまった6週間。
6週間のはじまりは、天候のイタズラが生んだハプニングから。主人公のアレックスはセーリングを楽しむために一人で沖に出たところ、突然の嵐に見舞われて転覆してしまいます。そこに救世主として現れたのがヨットで近くを通りかかったダヴィド。この運命的に出会った2人の美しい少年は、またたく間に惹かれ合い、友達以上の関係になります。
わたしがとても気に入っているのは、“ボーイズラブを描いている”という特別感がないこと。映画の序盤にアレックスの友だちがダヴィドに向かって「このゲイ野郎」と悪態をつくシーンがありますが、それ以外は差別的な箇所や障害はほぼなく、男女のそれとなんら変わらず、普遍的な恋愛をたどっています。
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
出会って、恋をして、永遠に別れるまでの6週間。たった6週間ですが、はじめての恋だったアレックスには、そのときが人生のすべてだと感じます。恋に溺れ、一瞬たりとも離れずにダヴィドのそばにいて、幸せを謳歌します。対するダヴィドは恋愛豊富な自由人。アレックスの想いを重いと感じるようになり、釣った魚より、新しい魚にも興味が向きます。多くの恋愛の流れと同じように、アレックスとダヴィドの幸せな時間はいつか過ぎ、苦悩と痛みのときを迎えて終わりを告げるのです。永遠の別れとともに―――。
しかし、物語はここでは終わりません。恋とダヴィド、つまり人生のすべてを失ったアレックスは、絶望と混乱のなかでいつかの約束を思い出し、それを果たすために進んでいきます。若者の暴走気味なピュアさ、その痛々しくもまぶしい姿は時代が変わっても魅了されるものなのだと改めて感じました。
監督であるフランソワ・オゾンは、この映画の原作となったエイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)を自身が17歳のときに読んで衝撃を受け、「いつか長編映画を監督する日がきたら、その第一作目はこの小説だ」と決意していたそう。わたしも映画とあわせて原作も読んでみたくなりました。
俳優の魅力と80年代カルチャーが映画をキラキラと輝かせる。
この映画に説得力を与えているのは、メインの2人の魅力。監督であるオゾンは俳優選びにとことんこだわり、適役がみつからなければ映画化自体を取り止めようと考えていたそうで、その想いに見事に応えられる2人をオーディションで選んでいます。
主役のアレックスを演じたフェリックス・ルフェーヴルはリヴァー・フェニックスの雰囲気をもっていて、「童顔で笑顔も子供のように愛くるしくて、生命感に溢れている。それでいて目にはどこか哀愁がある」とオゾンも絶賛。ダヴィドを演じたバンジャマン・ヴォワザンは野生動物のような自由奔放さを放ち、恋を知らないアレックスが惹かれていくのも納得できます。
美しいル・トレポールの景色とこの2人が、とにかく絵になるのです。
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
そして、80年代のカルチャーも大きな見どころ。ファッションやヘアスタイルはもちろん、個人的には人気エレクトロ・デュオ「エール」のジャン=ブノワ・ダンケルが担当した音楽に心が踊ります。オープニングで流れるTHE CUREの代表曲「In Between Days」は監督のオゾン自身がバンドに直談判して使用許可を得たほどで、この映画のテーマにぴったりハマっています。また、ロッド・スチュワートの超有名曲「Sailing」も印象的。映画を目にする人は、キラキラと輝く音楽にも注目してもらいたいです。
映画『Summer of 85』
2021年8月20日(金)より、大阪ステーションシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹にて公開。
公式サイト:https://summer85.jp/