ヒップホップは、1970年〜1980年初頭にニューヨークのブロンクス地区で誕生したカルチャーだといわれています。その黎明期を記録した伝説的なドキュメンタリー映画『Style Wars』がデジタルリマスターされ、40年の時を経て日本初公開。閉塞的なコミュニティの若者から新しい文化が生まれ、大人および社会と対峙しながらどう発展させていくのか?ありのままを記録した映像で、生々しく今に伝えてくれます。
ニューヨークのブロンクス。“ネーム”の自己表現が、カルチャーとなる。
「ヒップホップ」と聞くと、バックトラックにラップをのせた音楽をイメージしがちですが(私自身がそう!)、それは「ヒップホップミュージック」。ヒップホップには音楽だけでなくダンスやアートという表現方法も含まれ、「ラップ(MC)」「DJプレイ」「ブレイキン(ブレイクダンス)」「グラフィティ」が四大要素と呼ばれています。(そのことを今回の映画ではじめて知りました…勉強不足ですみません!)
ヒップホップカルチャーの初期を記録した本作は「グラフィティ」を軸に展開。カルチャーはストリートから生まれるなんて言葉を耳にしますが、それをいうなら“ヒップホップはヤード(鉄道の操車場)から生まれた”といってもいいのかもしれません。
地下鉄のヤードに忍び込み、スプレーやフェルトペンを屈指して車両に自分の存在を示す“ネーム”を色鮮やかに描く。ライターと呼ばれるグラフィティを描く少年たちは、そのことを「ボム(=爆破)する」と表現するのですが、ボムされた車両は夜明けともに暗いヤードから出て陽を浴び、ひと目にふれていきます。
その姿はライターたちの「俺はここにいる」という叫びの象徴のように映り、“色鮮やかなネーム(=自分自身)がボムとなって昇華されている”なんてヒップホップ門外漢のわたしは思うのでした。
©MCMLXXXIII Public Art Films, Inc. All Rights Reserved
それにしても、自己表現方法を手にした少年たち姿はなんと魅力的なことか。あぶなっかしくありつつも、カッコよくて能動的。カルチャーはこうやって生まれ、広がっていくものなのだなぁと改めて認識させられたような気がします。
グラフィティは、アートか? 犯罪か?
『Style Wars』は1981年から1983年にかけて制作されています。今でこそ、グラフィティはアートとしての地位を確立していますが、当時は“地下鉄の車両を汚すラクガキ”と捉える人がほとんど。“違法”として扱われています。(もちろん今でも無許可でラクガキをすると罪に問われます)
劇中でも、SKEMEというグラフィティライターの母親が登場して息子の行為に苦言を呈しているし、ニューヨーク州のエライ人たちはグラフィティを排除してキレイな地下鉄を取り戻そうと手を尽くします。
そのイタチごっこのようなやりとりもリアルな記録で、本作の見どころのひとつです。今やいい大人になってしまったわたしがいいなと思ったのは、若者の自己表現をラクガキとして煙たがる大人を単純に悪者とせず、彼らにも彼らの正義があることを提示しているところ。
“社会・大人の正義×若者たちの自己表現”は、信じるものが違うので互いのことを理解できません。でも、その対峙があるからこそ、新しい文化のチカラはより強靭になり、大きく飛躍できたのでは? ヒップホップが世界的に普及している現代の視点からではありますが、この映画を観てわたしはそう感じました。
1970年代に誕生したヒップホップカルチャーは世界中に広まり、多くの人々を熱狂させています。そして、2021年。『Style Wars』というタイムカプセルが40年ぶりに開いたことで、わたしたちはその起源にふれられます。ヒップホップという文化の幕が開いた熱気は、映画館でも共有できるはずです!
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映画『Style Wars』〈デジタル修正版〉
2021年3月26日(金)より、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、アップリンク京都にて公開