2014年も暮れゆく12月20日(土)、関西サッカーリーグのシーズンを締めくくるアウォーズが、大阪市内のホテルで開催された。シーズンを通じて活躍した選手・監督をはじめ、クラブやリーグ関係者、ファン・サポーターなど、百数十名もの人々が集まる華やかなパーティだ。今年の関西リーグは2クラブがJFLに昇格するという嬉しいシーズンとなり、場内の雰囲気もそんな関西サッカーの一年を締めくくるにふさわしい祝賀ムードに包まれていた。
最終節まで目が離せない
混戦・激戦の2014シーズン。
「今年の関西サッカー界は、明るいニュースがたくさんありました」。堀江良信アナウンサーの言葉で、アウォーズは幕を開けた。明るいニュースというのは、奈良クラブ・FC大阪の2クラブのJFL昇格のことだ。関西社会人サッカー連盟の山野会長も、冒頭挨拶で2チームの昇格について祝福した。「奈良クラブは2002年アイン食品以来全国地域リーグ決勝大会(地決)で優勝されました。FC大阪は2007年FC Mi-O びわこ(現MIOびわこ滋賀)以来、全社(全国社会人サッカー選手権大会)で優勝されまして、地決で準優勝されました。そして、奈良クラブとFC大阪がともども日本フットボールリーグに昇格されました。本当におめでとうございます」。関西サッカー協会の浅野理事もこの2クラブへの祝辞を述べるとともに「社会人もそうですけれど、学生、いろいろな年代でも頑張っております。この調子で『日本に関西あり』というところをぜひ見せていただきたいと思っております」と、関西のサッカー全体へエールを送った。
7シーズンぶりに関西リーグからJFL昇格チームが2チームも誕生したこともあり、今回のアウォーズは終始笑顔や歓声にあふれていた。しかし、リーグ戦は熾烈だった。Division1では、8チームのうち6チームはここ数年ずっと昇格を狙ってきたチーム。特に奈良クラブ、FC大阪、アルテリーヴォ和歌山といった上位3クラブは、オフにJリーガーを含む有力選手を補強し、昇格への意欲を見せていた。そんなクラブの思いを反映するかのように、シーズン開幕後もしばらくは混戦が続く。しかし、やがてリーグは昨年優勝のFC大阪と奈良クラブがデッドヒートを繰り広げる様相に。そして天王山の第11節、首位FC大阪を勝点1差で追う奈良クラブとの直接対決を奈良クラブが制して首位に躍り出ると、そのままリーグ優勝。FC大阪は2位でフィニッシュとなった。3位以下も混戦が続き、最終節には3位をめぐってバンディオンセ加古川とアルテリーヴォ和歌山の直接対決が行われ、アルテリーヴォ和歌山は3位でリーグを終えた。
優勝した奈良クラブは、その後11月に行われた地決にも優勝してJFL昇格。2位のFC大阪は9月末の全社を制して地決へとコマを進め、準優勝でJFL昇格を決めた。上位2チームがJFLへ抜けたことで、関西リーグは1部・2部とも降格はなし。2015シーズン、1部は既存の6クラブに2部から昇格するFC TIAMOとAS. Laranja Kyotoを加えた8クラブという構成になり、最終節まで昇格争いが続いた2部も、1部昇格の2クラブを除いた6クラブに、関西府県リーグ決勝大会を勝ち上がったルネス学園甲賀と岸和田クラブを加えた8クラブでシーズンを戦うことになる。
関西サッカーリーグ2014シーズン 表彰
<Division1>
優勝 奈良クラブ
準優勝 FC大阪
3位 アルテリーヴォ和歌山
フェアプレー賞 奈良クラブ、アルテリーヴォ和歌山、関大FC2008
●ベストイレブン
GK シュナイダー 潤之介(奈良クラブ)
DF 野本 泰崇(奈良クラブ)、伊澤 篤(奈良クラブ)、岩本 知幸(FC大阪)、角南 裕太(アルテリーヴォ和歌山)
MF 稲盛 陸(奈良クラブ)、高橋 周也(FC大阪)、篠原 嗣昌(アミティエSC京都)
FW 瀬里 康和(奈良クラブ)、川西 誠(FC大阪)、大西 佑亮(アルテリーヴォ和歌山)
●最多得点者 瀬里 康和(奈良クラブ)、川西 誠(FC大阪)、大西 佑亮(アルテリーヴォ和歌山)
●最多アシスト者 高橋 周也(FC大阪)
●最優秀新人 江坂 巧(阪南大クラブ)
●最優秀選手 瀬里 康和(奈良クラブ)
<Division2>
優勝 FC TIAMO
準優勝 AS. Laranja Kyoto
3位 高砂ミネイロFC
フェアプレー賞 ディアブロッサ奈良
●ベストイレブン
GK 竹内 和也(龍野FC)
DF 永田 憲太郎(AS. Laranja Kyoto)、長尾 祐次(高砂ミネイロFC)、中室 政志(ディアブロッサ奈良)
MF 黒川 輝紀(FC TIAMO)、吉澤 春風(AS. Laranja Kyoto)、卯田 堅悟(関学クラブ)、椿本 拓也(ディアブロッサ奈良)
FW 奥田 勇太(FC TIAMO)、吉川 翔也(アイン食品)、篠部 拓真(京都紫光クラブ)
●最多得点者 奥田 勇太(FC TIAMO)
●最多アシスト者 黒川 輝紀(FC TIAMO)、吉澤 春風(AS. Laranja Kyoto)
●最優秀新人 奥田 勇太(FC TIAMO)
●最優秀選手 奥田 勇太(FC TIAMO)
<リーグ特別表彰>
●100試合出場選手
105試合出場 椿本 拓也(ディアブロッサ奈良)
105試合出場 梶村 卓(ディアブロッサ奈良)
●ファン・報道陣による投票
Manager of the Year 辻本 茂輝(アルテリーヴォ和歌山)
Player of the Year 辰巳 正矩(AS. Laranja Kyoto)
<KSLカップ>
優勝 奈良クラブ
準優勝 バンディオンセ加古川
3位 FC大阪
クラブそれぞれに思いを抱いて。
2014から2015シーズンへ。
<奈良クラブ>
10勝3分1敗の勝点33でリーグ優勝。全社はベスト8に留まるものの、JFL昇格が懸かる地決で優勝し、2015シーズンはいよいよ全国リーグへ舞台を移す。2013シーズン5位だったチームを、リーグ優勝、地決優勝、KSLカップ優勝という三冠に導いたのは、2014シーズンに就任した中村敦監督。選手たちの活躍も際立ち、5選手がベストイレブンに選出された。瀬里選手は、ベストイレブン、最多得点者、最優秀選手賞を受賞した。
●中村 敦 監督
「今シーズン、ひとことで言うと『大変でした』ですね(笑)。でも一年を通してチームの雰囲気は良かったので、そのチームワークが最終的には優勝という結果に結びついたのかな。みんなが同じ方向を向いて戦えたのが勝てた要因です。JFLはそう甘くはないリーグですが、今の戦力+αを身につけて、しっかりと戦えるチームを早くつくりたいと思います。また、奈良クラブはファン・サポーターのみなさんがすごく応援に来てくれたことも力になりました。みなさんの声援があると選手も一歩でも二歩でも走れるし、ダイナミックなプレーにもつながります。観て楽しいサッカーになっていくんです。だから、ファン・サポーターのみなさんと一緒になって盛り上がるシーズンにしていきたいと思います」
●瀬里 康和 選手
「受賞に関しては、ぼく一人の力ではありません。2トップの相方を組んでいた鶴さん(鶴見選手)がマークをはずしてくれて、ぼくのところに来たボールを決めるという感じでした。また、シュナさん(シュナイダー選手)の存在も大きかったですね。本当にチームメイトに感謝です。2015シーズンのJFLはぼくがもともといたカテゴリーなので(現ヴェルスパ大分、FC琉球)、もう一度チャレンジして来年もまた得点王を取れるように頑張ります」
●矢部 次郎 GM
「選手・監督みんなが奈良クラブのカラーを理解してくれて、ファン・サポーターのみなさんも後押ししてくれて、みんなの力が同じ方向を向くことができました。それがどのクラブよりもできたと思います。私自身、毎週末試合が楽しみでしたし、楽しませてもらいました。JFLへ、そしてJ3へ向けて、目がまわるくらい忙しい日々ですが、奈良クラブらしさをしっかりと保っていきたいと思っています。今、『奈良クラブって面白そう』というイメージがあると思いますし、選手たちもファン・サポーターのみなさんも本当に楽しい人ばかり。スポンサーや街の人たちにも理解者がたくさんいます。奈良という街に新しい文化・歴史をつくっていきたいと思っていますので、ぜひ一度観戦に来て欲しいですね。全国のみなさんも、奈良クラブを観に奈良観光に来てくれたらと思います」
<FC大阪>
リベンジのシーズンだったかもしれない。2013シーズンを無敗で優勝したチームは、2014シーズンは9勝4分1敗の勝点31で準優勝。しかし、その1敗を教訓に全社では見事優勝を果たして地決進出を勝ち取った。2013シーズンは予選ラウンドで敗退した地決でも、2014シーズンは準優勝と結果をだしてJFL昇格を決めた。2011年の大阪府リーグからここまで在籍選手の顔ぶれも変わったが、岩本選手は関西2部だった2012年の入団からずっとチームで戦ってきた。
●岩本 知幸 選手
「入団して3年目なんですけど、年々チーム力が上がってきている中でJFL昇格を果たせたことは何より嬉しいです。2014シーズンは、リーグ戦、全社や地決も含めてすごく厳しい戦いが続きました。その中で、試合ごとにチームが成長できたのが良かったなと思います。チームワークも素晴らしいです。ピッチ上で結果を残した裏には、チーム全体でのミーティングや選手同士の話し合いがたくさんありました。それが結果につながったと思うので、本当にチームの総合力で勝ったシーズンだったと思います。JFLはこれまで以上に厳しい戦いになると思いますが、奈良クラブさんと一緒になって関西からしっかりJFLを盛り上げていきたいと思います。いつも応援してくださったファン・サポーターのみなさん、これからもよろしくお願いいたします」
<アルテリーヴォ和歌山>
2005年に児玉GMらが中心となり「和歌山からJリーグチームをつくる会」を発足させてから、常にJリーグを目指して戦ってきたクラブである。2014シーズンは7勝2分5敗、勝点23の3位。混戦だった3位争いを最終節で勝ち切ると、地元和歌山で開催された全社ではベスト8まで勝ち進み地域の人々を沸かせた。元Jリーガーで1999年のワールドユースでも活躍した辻本監督が就任し、元日本代表の永井雄一郎選手の加入も話題になった。
●辻本 茂輝 監督
「リーグ3位、残念ではありますが昇格する2チームの後につけることができたのは良かったと思います。選手たちが本当に良く頑張ってくれました。みんな働きながらサッカーをしているので辛いことも多いはずだけど、グチのひとつも言わずに本当に一生懸命戦っていました。その思いが試合に出ていました。私自身はそんな選手たちを応援していただけでしたから、Manager of the Yearはびっくりしましたが、いい経験ができて良かったです。2015シーズンは和歌山国体もありますし、JFL昇格へ本当にチャンスだと思います。私はチームを去りますが、アルテリーヴォ和歌山がいちばん上にいてくれるように祈っています」
※2015シーズン辻本監督はガイナーレ鳥取U-18へ移籍。
●児玉 佳世子 GM
「上位2チームが昇格したことで、2015シーズンは優勝へのチャンスです。でも、関西1部の他のチームさんもみなさんチャンスだと思っているはずなので、また厳しいシーズンになるでしょう。その中でも優勝する決意で臨んでいきます。クラブとしては関西1部で4年目、いつまでも同じ場所に留まっていることはできません。長年在籍している選手も多く年々成長が感じられますし、特にここ1、2年は非常に良くなってきているので、チームとしてさらに成長して上のステージに行きたいですね」
<阪南大クラブ・関大FC2008>
Jリーグをめざすクラブがしのぎを削る関西1部で、2014シーズンに昇格してきた大学生2チームには悔しいシーズンとなった。しかし、阪南大クラブの江坂選手は厳しい試合展開で積極的に前へ仕掛けるプレーが際立ち、最優秀新人賞を獲得。関大FC2008も、どんな局面でも正々堂々と戦いフェアプレー賞を獲得した。
●江坂 巧 選手(阪南大クラブ)
「個人的にはあまり納得のいくシーズンではなかったんですけど、こういう賞をいただけたことはとても嬉しく思っています。2015シーズンは、チームとしても個人としてももっと結果にこだわり上をめざしていきたい。(阪南大学サッカー部はチーム数が多く)来シーズンはどのチームに所属するかわかりませんが、今に満足することなく常に向上心をもって頑張ります。また、阪南大のトップチームも総理大臣杯、関西学生リーグ、インカレと三冠をめざしていますので、自分はそこで活躍するつもりでシーズンに挑みたいと思います」
<FC TIAMO>
2014シーズンの関西リーグDivision2は、最終節にドラマが待っていた。勝点22で並ぶ首位FC TIAMOと2位高砂ミネイロFCの首位攻防戦。3位AS.Laranja Kyotoと4位アイン食品も、ともに勝点20で直接対決を迎えた。FC TIAMOは注目の首位攻防戦を制し、8勝1分5敗勝点25で優勝。大阪府リーグから昇格したばかりのチームが、1年でDivision1への昇格を決めた。
●村島 孝史 監督
「2014シーズンは厳しい戦いでしたけれど、チーム一丸となって頑張れたのが良かったと思います。選手たちが本当に頑張ってくれました。それが、1年でDivision1に昇格できた一番の理由かなと。2015シーズンはDivision1ですが、さらにもうひとつ上のカテゴリーに進むために頑張っていきたいと思います」
<高砂ミネイロFC>
最終節で悔しい思いをしたものの、シーズン中盤では首位に立ち健闘した高砂ミネイロFC。しかし同時に苦労の多いシーズンでもあった。週2回の練習でもなかなかメンバーが集まらず、試合当日も仕事があって出場できない選手が多いため、棄権だけは回避すべく2014シーズンは森監督もメンバー登録してピッチに立ったほどだ。その中で、最後まで優勝争いに加わりリーグを沸かせた背景には、監督の采配、選手一人ひとりの頑張り、そして徹底したスカウティングなどクラブスタッフの献身もあった。クラブ全員で勝ち取った3位だ。
●森 卓也 監督
「本当に苦しいシーズンでしたけど、結果には満足しています。最後の最後で負けてしまいましたが、チーム事情を考えれば長く首位にいたこと自体が奇跡みたいなところもありました。高砂ミネイロFCは、試合に11人そろわない可能性もあるチームです。だから私も選手登録しましたし、実際にスタメン出場した試合もありました。どんな試合になろうとも、棄権だけは避けたかったですから。『来たメンバーで戦う』というのは、高砂ミネイロFCの課題です。その中でも勝てるチームづくりというのを、これからもずっと続けていかないといけないと思っています」
リーグを支えるたくさんの人々がいる。
それこそが、関西サッカーの魅力。
表彰される選手たちへ、場内から拍手や歓声があがる。あちらこちらで記念撮影のフラッシュが光る。チームメイトと、ライバルと、ファン・サポーターと、いったい何度乾杯が行われたことだろう。幸福な時間が過ぎるのはあっという間だ。賑やかな雰囲気のまま、アウォーズはフィナーレを迎えようとしていた。八木勉運営委員長が笑顔でステージに上がった。
「今年は本当に嬉しいことがたくさんありました。毎年毎年『残念でした』と言い続けてきたのが、2チームが一緒に昇格していただきまして嬉しい思いでいっぱいです。今年の関西リーグは非常にフェアプレーの中で行われたと思いますので、そんなリーグ戦の下支えがあって昇格に導いたのかなと思います。関西リーグもいろいろな方に下支えされてチームが成り立っています。下支えをしていただいているという気持ちは非常に大切です。昇格される両チームも、JFLでの戦いで下支えする人がたくさん増えるでしょうし、支える方のご苦労も非常に大きいものだと思います。感謝の気持ちをもって、両チーム切磋琢磨して、JFLを勝ち抜いて早期にJ3にあがっていただきたいと思います。それから、4年ほど前にお身体を悪くされて杖をついておられた山野会長が、今年は杖なしで登壇されましたことも非常に嬉しく、関西リーグも足元をしっかりと整えていかないといけないなと改めて思いました。ぜひ来年も関西リーグのチームからJFLに上がっていただきたいという気持ちを込めて、今年の締めのあいさつとさせていただきます。本日はありがとうございました」
Text by Michio KII