これほどまでのアウォーズを開催する地域リーグは、そう多くはないはずだ。12月21日(土)大阪市内のホテルで開催されたThe KSL Awards 2013。リーグ関係者、フロント・監督・選手、ファン・サポーターが一堂に会し、各表彰を通じてタフなシーズンの健闘を讃え合う。戦いを終えた柔らかな笑顔の中には、来季への闘志や涙もあった。関係者のスピーチ、インタビューから、2013シーズンの関西サッカーリーグを振り返ってみる。
関西サッカーリーグ、激戦の2013シーズン。
シーズンのフィナーレを飾る、華やかなパーティ。
関西サッカーリーグの表彰式は以前から行われていたが、市内ホテルのバンケットホールで開催されるのは今回で4回目になる。フォーマルなパーティの雰囲気は、関西リーグのプライドとステイタス。この舞台で表彰されるということは、関西を舞台にプレーするすべてのサッカー選手たちの頂点にいることを意味するのだ。
2012年からは、The KSL Awardsとしてファン・サポーターも参加できるスタイルになった。監督・選手たちと一緒にシーズンの終わりを祝えるのは、サポーター冥利に尽きるだろう。ブッフェスタイルのホテルディナーや、各地域の名産品紹介コーナーなども好評だ。お土産には記念のグッズやケーキもある。参加者の満足度はかなり高い。
2013年の今回は、関西サッカー協会や社会人サッカー連盟の役員をはじめ、シーズンを戦った監督・選手・クラブ関係者、ファン・サポーターなど、160名を超える人々が参加。中国サッカーリーグや北信越フットボールリーグの役員も迎えた。関東や沖縄から訪れた人もいる。授賞式の模様をインターネットでライブ配信するKSLTVを楽しみにしているファンも少なくない。サッカー文化が根付いていないと言われる関西だが、ここには、サッカーへの熱いまなざしと惜しみない愛があふれていた。
関西サッカーリーグを、知っていますか?
アウォーズをレポートする前に、関西サッカーリーグ(以下関西リーグ)について少し触れておきたい。
ご承知のように、日本のサッカー界は2014シーズンから少し変わる。プロサッカーリーグであるJ1・J2の下に、J3が新たにスタート。J3と並ぶようにアマチュアの全国リーグJFLが位置づけられ、その下に全国9ブロックの地域リーグが存在する。その1つが、関西リーグだ。
リーグはDivision1・Division2各8チームの計16チームで、元Jリーガーも活躍する。Jを目指す強豪クラブあり、子どもたちを指導する地域のクラブあり、厳しい経済情勢の中で健闘する企業クラブあり、そして、名門大学のクラブや、そのOBチームあり。それぞれに個性的なクラブが、サッカーへの情熱とプライドをかけて戦っている。
もしも、まだ関西リーグの試合を見たことがなければ、ぜひ一度、スタジアムを訪れてほしい。選手たちとの距離感が近く、ボールを蹴る音やコーチングの声が響くフィールドは臨場感いっぱいだ。気持ちを込めた熱いプレーやサポーターの懸命な応援は、サッカーが持つ楽しさや魅力に、改めて気づかせてくれる。
激戦のDivision1、立ちはだかる全国の壁。
アウォーズ開会のスピーチで、関西社会人サッカー連盟・山野会長はこう述べた。「今年は非常に厳しい戦いであると予想していました。力の均衡があり、激しいゲームが展開されたと思います」。
中でも、Division1は、激戦区と言われた。昇格をめざし切磋琢磨する6チームに、台頭著しい2チームが加わり、しのぎを削る戦いが始まった。拮抗する戦力。簡単な試合はない。どのチームも思うように勝点を伸ばせずにいる中で、抜け出したのはFC大阪だった。シーズン無敗で優勝し、JFLへの昇格がかかる地域リーグ決勝大会に出場。しかし、森岡監督が「最後の最後で勝負弱さを見せてしまい…」と語るように、1点差で決勝ラウンド進出を逃す。
それだけではなかった。新たにスタートするJ3へ、関西からはJFLのMIOびわこ滋賀と関西リーグの奈良クラブが加盟申請を行ったが、いずれもかなわず。さらに、J3発足で枠が空いたJFLへ関西リーグから5クラブが入会申請を行ったが、承認されるクラブはなかった。
2014シーズン、雪辱を誓うFC大阪を筆頭に、アミティエSC、レイジェンド滋賀FC、バンディオンセ加古川、奈良クラブ、アルテリーヴォ和歌山の5クラブが、虎視眈々とJFL昇格を狙う。さらにそこに、勢いのいい大学生チームがDivision2から上がってくる。Division1が今シーズン以上の激戦になるのは、間違いない。
Division2の苦悩。それでも、サッカーを続けたい。
社会人選手たちのサッカー環境は、必ずしも恵まれてはいない。仕事が終わった夜間の練習。休みが合わず、試合に出られない選手もいる。特にDivision2には、「サッカー中心」でいられる社会人選手は、いったいどれほどいるだろうか。
今シーズン兵庫県リーグからDivision2に昇格した高砂ミネイロFCは、土曜開催も多いこのリーグで思うようにメンバーが集まらない現実と直面する。疲労する真夏のデーゲームを、サブのフィールドプレーヤーがたった2名という状況で戦った試合もあった。
そんな中、リーグを勝ち抜いていったのは、関大FC2008と阪南大クラブという大学チームだった。どちらもプロを輩出する名門校。サッカー部には100人を超える部員がいるため、選手の出場機会を増やすために、社会人リーグで戦うチームをつくっているのだ。高校サッカーの名門やJユース出身の選手も多く、レベルは高い。豊富な運動量に加え高い技術力で昇格を決めた両チーム。元JリーガーもプレーするDivision1で、来季はどんな試合を見せてくれるだろう。
関西サッカー、今シーズンのヒーローたち。
壮麗なボールルームで、セレモニーは粛々と続く。しかし、スピーチは熱い。山野会長の開会挨拶、役員・来賓紹介の後、檀上に上がった関西サッカー協会の高見会長の言葉も、心に響いた。「関西からサッカーを盛り上げていきたい。まわりの方々とともに、サッカーを愛する関西になっていければ」。
「今後も、関西リーグ、発展しますように!」。Division1優勝のFC大阪・森岡監督が乾杯の音頭をとると、場内は一転、ぱっと賑わいだした。チームメイトで盛り上がる学生たち、サポーターと写真撮影をする選手。ライバルチームの監督同士が親しげに語り合う場面も見られた。
やがて、場内のスクリーンで今シーズンの公式戦写真のスライドショーが始まる。素晴らしい試合がたくさんあった。お互いに一歩もひかない好ゲーム、取られたら取り返す展開の早い試合、完璧な崩しも、組織的な守備も、スーパーゴールも神セーブも、そして、スタジアムを沸かせるサポーターのコール合戦もあった。
シーズンを振り返る和やかな雰囲気の中、各表彰が始まった。2013シーズンの表彰クラブ・選手が次々と舞台に上がり、晴れやかな笑顔で喜びの言葉と来シーズンへの抱負を述べた。
<Division1>
優勝 FC大阪
準優勝 アミティエSC
3位 レイジェンド滋賀FC
<Division2>
優勝 関大FC2008
準優勝 阪南大クラブ
3位 ディアブロッサ奈良
フェアプレー賞 関大FC2008
<KSLカップ>
優勝 阪南大クラブ
準優勝 奈良クラブ
3位 アルテリーヴォ和歌
プライド、ライバル、チームワーク…
関西サッカーから目が離せない。
それぞれのクラブにとって、今年はどんなシーズンだったのだろうか。アウォーズのスピーチやコメントを交えながら、シーズンを沸かせたクラブを少し紹介したい。
Division1優勝 FC大阪「学ぶことの多い1年」
「来年こそは、昇格したいと思います。関西リーグの中から昇格したい。どのチームが上がってもいいと思うんですけど、その中で、FC大阪はいちばんに上がりたいと思います」。
リーグ戦12勝2分0敗、優勝監督としてスピーチをしたFC大阪の森岡監督は、「学ぶことの多い1年でした」と今シーズンを振り返る。
「関西リーグが激戦になる中で、無敗で優勝できたということは、本当に選手たちに感謝を言いたいです。でも、“思い通り”でもなかった。勝負弱さ、そのあたりの詰めが甘く、私自身勉強になりました。選手たちにとっては、(地域リーグ決勝大会では)3連戦という初めての経験もありましたし、全国のレベルもわかったと思います。また、外国籍選手の加入で、コミュニケーションでの試行錯誤もありました。そのあたり、選手たちには勉強になっていると思います」。
Division1第4位 バンディオンセ加古川「面白くしてやろう」
「森岡監督はああ言われましたが、うちは絶対負けないぞと」。
FC大阪・森岡監督の「いちばんに上がりたい」というスピーチに応える、バンディオンセ加古川・橋本監督。混戦のリーグで、FC大阪が唯一勝てなかったチームだ。両監督ともガンバ大阪でプレー。“バンディオンセ神戸”では監督・選手の関係だった。
「少数精鋭でシーズンを戦う中、選手たちは、良くやってくれたと思います。開幕2連敗しましたが、後は1試合しか負けなくて。全国社会人サッカーではヴォルカ鹿児島(地域決勝4位。FC KAGOSHIMAと合併し鹿児島ユナイテッドFCとして来季からJFLへ)に延長で敗れましたが、選手はプラン通りよく戦ってくれましたし、全国で戦う手ごたえは感じています。2008年に加古川にホームを移してから、よくここまでやってきました。来季はこれまでの集大成という気持ちで臨みます。面白くしてやろう。優勝狙ってやろう。自信、ありますよ。強気で行きます」。
Division2第5位、京都紫光クラブ「ひとつになって戦えた」
「入替戦を経験したことで、選手がひとつにまとまった。いい雰囲気の中でサッカーできたと思います」。2013シーズンを関西リーグ入替戦でスタート。負ければ京都府リーグ降格という崖っぷちから生還したクラブは、今シーズン、苦しみながらも残留を決めた。児島監督は語る。「ひとつになって戦えたことが残留につながったかなと。キャプテンを中心に、選手たちも思ったことをぶつけあっていけました。4連敗もあり厳しかったですが、それでも踏みとどまれたところが今シーズン成長した部分です」。
中田キャプテンも「入替戦、連敗、苦しい場面もありましたが、チーム一丸となってひとつの方向に頑張れたことが、結果につながったと思います」。
そんなチームを象徴するのが、篠部選手のDivision2アシスト王の獲得だろう。「ぼくのパスを決めてくれたチームメイトの存在があってこその賞だと思いますし、チームメイトとともに獲得できた賞、大変嬉しく思います」という受賞スピーチが、今シーズンの京都紫光クラブの戦いぶりを物語っている。
夢をつなぎたい――サッカーへ、尽きぬ想い。
今シーズン限りでの休部。
「パナソニックエナジー洲本が今年度限りで休部というニュースが飛び込んでまいりました―」。その話題に最初にふれたのは、山野会長の開会のスピーチだった。
「パナソニック洲本、旧三洋電機洲本は、今年をもって関西リーグを離脱することになりました。私は在籍5年間でしたが、たくさんのことを関西リーグで経験させてもらいました。本当にありがとうございました」。Division2ベストイレブンに選ばれたパナソニックエナジー洲本の村上選手も、受賞スピーチでそう語った。
2013年12月、パナソニックエナジー洲本サッカー部の今シーズン限りの休部と、関西リーグからの離脱が発表された。
企業クラブの名門、“三洋電機洲本”。
その名の通り、淡路島をホームとするクラブである。三洋電機洲本として1985年から関西リーグに参戦。当初は、整備の行き届かないグラウンドでプレーし、試合ともなればフェリーを使い1泊2日で遠征するなど、苦労しながらもサッカーに打ち込んできた。これまで、リーグ優勝3回、天皇杯出場2回、2010年には全国地域リーグ決勝大会3位でJFL入替戦を戦った強豪。しかし、初めてDivision2に降格した今季は、交代勤務や異動など選手たちの仕事環境も変わり、苦しい戦いを余儀なくされた。
そして、今シーズン限りでの休部が決まる。
三洋DNAを継ぐ選手を、未来へ。
アウォーズ閉会の挨拶を、関西サッカーリーグ八木運営委員長はこの話題で締めくくった。自身、NTT関西(廃部)の選手として三洋洲本との熱戦を繰り広げてきた経験を持つ。それだけに、この知らせをどんな想いで受け止めたのか…。スピーチの途中、八木運営委員長はパナソニックエナジー洲本の中野監督を檀上に招いた。休部ということであるが、ぜひ、今後何らかの形で復活して欲しい、と願って。
突然の指名に、中野監督は、こみあげる想いを抑えるように丁寧に言葉をつないだ。「関西リーグがこれだけ繁栄しているというのは、ここにおられる方々、選手、サポーターのおかげだと思っております。私も頑張って、また新たなチームを淡路島から関西リーグへおくりこみたいと思っておりますので、その時はよろしくお願いいたします」。
場内のサポーターから上がった「三洋洲本」コールが、やがてホール全体に広がった。その声を、八木運営委員長が引き受ける。
「淡路島の子どもたちにサッカーを教えている選手もたくさんいるということでございます。ぜひ三洋DNAを持った選手を淡路島で育てていただいて、早い機会に上がれるように活動していただければと思っています。三洋洲本さんに、最後、エールを送らせていただいて、締めの挨拶とさせていただきます。ありがとうございました」。
休部するクラブのためにも、関西リーグを盛り上げていこう。
「昨シーズンまでとは勤務環境が変わり、最初はどうなるかと思っていたのですが、何とか選手たちが頑張ってくれました」。中野監督が言うとおり、今シーズンのパナソニックエナジー洲本はDivision2を4位でフィニッシュした。休部の噂はシーズン中からサポーターにも漏れ聞こえていたから、監督・選手たちも知っていただろう。
どんな想いでプレーを続けてきたのか。
「企業チームですから、業績によってチームの存続が左右されるのは仕方がないこと」と中野監督は静かに語る。その表情に、インタビューする言葉が詰まった。このような悲劇を、サッカーを愛する一人として、見ていることしかできないのだろうか。
「企業チームが企業の方針で消えていくというのは寂しいですけれど、そのかわり、クラブチームにその役割をしっかり担っていただきたいと思います」。セレモニー終了後、八木運営委員長はそう語った。そして「関西サッカーリーグに上がりたいんだ、というチームがたくさん出て、目標となるリーグにしていきたいと思っています」。
関西サッカーに関わるすべての人に
サッカーへの愛と感謝を。
素晴らしいアウォーズだった。
シーズンの健闘と優れたプレーを讃えるにふさわしい、華やかな舞台。これらはすべて、運営スタッフが手弁当で試行錯誤しながら準備したものだ。スタッフと言ってもリーグとは別の仕事も持っているから、プライベートな時間を削っての作業は深夜に及ぶことも珍しくない。アウォーズに華を添えるプレゼンターの女性たちも、各クラブのマネージャーに協力してもらった。
運営に携わった関西サッカーリーグ豊浦総務主事は、アウォーズを振り返ってこう語った。
「関西と言いましても淡路島など遠方もありますから、そんな中で、多くの方にご参加いただけたことに感謝しています。このアウォーズは、リーグとリーグに関わるすべての人にとっての忘年会と思って、これまでやってきました。ギヴアウェイ(お土産)にケーキを入れているのは、この世界で生活している人が、往々にして、家庭を犠牲にしながらやってきていることもあり、せめて、リーグからご家族のみなさんと一緒に過ごす時間を作って欲しいという気持ちからです。これからも、ファンのみなさんにももっと楽しんでいただけるように、よりオープンな関西リーグにしていきたい。もっとメジャーな存在になるように、地域にしっかりと根をはって活動しているリーグにしていきたいと思っております」。
Text by Michio KII