『第20回大阪アジアン映画祭』PDインタビュー「空いた時間にふらりと観て、新しい映画に出会って」

「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマに、最旬のアジア映画を紹介する「第20回大阪アジアン映画祭」が3月14日(金)から3月23日(日)まで開催されます。

第20回を迎えた今回は、日本や韓国をはじめ、カザフスタン、バングラデシュ、フィリピン、タイなど多様な国々から67作品をラインナップし、そのうち世界初上映が19作、日本初上映が31作と注目作品がそろっています。

期間中、大阪の各会場で個性豊かな作品を多数上映している本映画祭。「限られた時間で何を観るべきか迷う」という方のため、本映画祭のプログラミング・ディレクター暉峻創三さんに、映画祭の楽しみ方やおすすめ作品を教えてもらいました。

 

映画祭を窓口に、日本へ、世界へ出ていってほしい。

── 「大阪アジアン映画祭」は、どのような映画祭ですか。

一言で表すと、アジア映画の祭典です。アジア映画の最新作をそろえたコンペティション部門をはじめ、注目してほしい才能をピックアップした特別注視部門や、挑戦的な作品を上映するインディ・フォーラム部門など、多彩なプログラムを用意しています。アジア映画というと、日本以外の映画をイメージされる方も多いかもしれませんが、日本もアジアの国のひとつ。この映画祭では、日本映画も含めたアジア映画の魅力を広く紹介しています。

 

── 大阪という土地で、アジア映画を発信する意義はなんでしょう?

大阪は、アジアや世界との交流拠点として栄えてきた土地です。その大阪を発信拠点に、日本や世界に向けて映画を送り出したいと考えています。ですから、すでに日本や世界で知られている作品ではなく、まだ広く知られていない作品を取り上げ、この映画祭を窓口に商業的に紹介していくことが目標のひとつです。

 

── 暉峻さんは、第四回からプログラミング・ディレクター(以下、PD)を担当されています。ご自身がPDになられてからの変化はありますか?

「大阪発」を強く打ち出しました。それまでは、すでに東京で公開されていた作品をラインナップすることも多かったのですが、それじゃあつまらないでしょう。日本初や世界初の作品を上映して、大阪から日本へ、さらに世界へ出ていってもらう。大阪のみなさんにアジア映画を紹介するだけでなく、大阪から世界のみなさんへアジア映画を紹介できるようにシフトチェンジしました。大阪アジアン映画祭は、“まだ世間に知られていないアジア映画を世界に発信する映画祭”という役割も担っています。

 

── 世界初や日本初の、魅力あるアジア映画を探すのは大変そうです。

確かに大変です。ただ、わたしは映画評論家でもあるので、日本で知られていないアジア映画を紹介する記事をたくさん書いてきました。それが作品のプログラミングというカタチになっただけなので、やっている仕事自体は昔から変わっていません。

 

── 作品はどのように探すのですか。

いろいろな方法があります。そのひとつが、海外の映画祭に参加することです。有名な映画祭には、大小さまざまな作品が集まりますからね。ただ、近年は映画の探し方も大きく変わりました。昔は現地に足を運び、その土地の試写室や映画館で観るのが基本でしたが、今はオンラインでどこにいても観られます。コロナ禍で海外へ行けなかった時期には、オンライン開催された映画祭もありました。

 

── 映画は家で気軽に観るものになりました。その一方で、“映画館で観る”という価値も認められています。

オンラインはいつでもどこでも観られるという利便性がありますが、映画館ではその場にいることが求められます。また、上映する会場の座席数という制約があるため、つくり手にとってはネガティブな要素に思えるかもしれません。しかし、その有限性が魅力でもあります。限られた時間に、みんなで集まって映画を観るという体験の重要性は、コロナ禍を経てさらに再認識されたと思います。

「第20回大阪アジアン映画祭」プログラミング・ディレクター暉峻創三さん

 

オープニングはカザフスタン映画。新しい世界が広がる作品で開幕したいと考えた。

── 今回の「大阪アジアン映画祭」は、第20回目。記念すべき年のプログラムとして、どのような点にこだわりましたか。

参加した人がそれぞれに新しい発見が得られ、新しい関心事がもてるようになる。そんな映画祭を、毎回めざしています。

その想いから、今回はスペシャルオープニング作品としてカザフスタン映画の『愛の兵士』を選びました。映画祭では、オープニングにポピュラーな作品を上映し、日本でも知られている人気スターを招いてレッドカーペットを歩いてもらうのが一般的です。大阪アジアン映画祭でも、過去には香港のスター俳優が出演している作品をオープニングにしたこともありました。

しかし、それでは新しい発見につながらないというか、作品や俳優の人気に便乗しているところがあります。20回目という節目の年でもありますし、今回は新しい世界が広がる作品で開幕したいと考えました。

 

── 正直なところ、カザフスタン映画にまったくなじみがありません。

ほとんどのみなさんがそうでしょう。監督や俳優を聞いても、誰ひとりとして知らないのではないでしょうか。しかし、いくつかの作品を観てみると、今のカザフスタンで明らかに新しい映画の動きがはじまっていることがわかります。それに、この『愛の兵士』は全編ミュージカル。日本でアジア映画というと地味なアート作品をイメージされがちですが、本作は完全にエンターテインメント作品として制作されています。

 

── アジアでミュージカルというとインド映画をイメージします。

インド映画のミュージカルシーンは、お決まりのカタチで挿入されます。こちらは全編がミュージカルで、もっと映画的に表現されています。インド映画を見慣れている人でも、「アジアにこういうミュージカル映画があるんだ」と驚かれるのでは。

また、本作ではカザフスタンの国民的グループ「A-Studio」の曲が10曲以上使用されています。近年はQ-POP(カザフスタンポップ)の人気が高まっているので、楽曲にも注目してもらいたいですね。

 

── Q-POPですか…。お話を聞いていると、わたしはカザフスタンのことをまったく知らなかったと気づかされます。

名前しか知らないような国でも、映画を通していろいろ知ることができます。カザフスタンは、どこか遠くにある小さな国だと思われがちですが、実際は違います。国土は大きいし、豊かな文化もあります。この映画を観てもらうと、カザフスタンという国のイメージが変わると思いますよ。

スペシャルオープニング作品『愛の兵士』

 

クイア映画や、音楽をフィーチャーした作品も多い。

── 『愛の兵士』だけでなく、今回は音楽に関連した作品もラインナップされています。

意図的に集めたわけではないのですが、気がつくとミュージカル的な映画や音楽関連の作品が多くなっていました。たとえば、短編の韓国映画『スズキ』は、都会に出ていった田舎の青年が久しぶりに実家へ戻り、音楽に夢中だった少年時代に聞いていたカセットテープを見つけて当時を思い出すという物語です。

特別注視部門『スズキ』 ©️Suzuki

 

── 『スズキ』の説明文に「2009年夏、ブラーが再結成し、オアシスが解散した…」なんて言葉があって、その時代がドンピシャのわたしはすごく心揺さぶられました!

それはぜひ観ていただきたいですね。あと、同じく韓国映画の『君と僕の5分』は、2000年代初頭の韓国が舞台の長編です。今からたった20数年前ですが、当時の韓国では日本の文化があまり認められていませんでした。しかし、若者たちはパソコン通信を使ってJ-POPや日本の漫画を楽しんでいたんです。そんな青春時代を振り返るストーリーで、当時流行していたglobeの楽曲がフィーチャーされています。

音楽は時代との結びつきが強く、楽曲を聴くだけでその時代を鮮明に思い出せます。今回は近過去を回顧するためというか、子どものころや青春時代を思い出させてくれるツールとして音楽を使っている作品が多い印象です。

 

── 今の時代を映すクィア映画も多いように感じます。

これまでも「大阪アジアン映画祭」ではクィア映画をたくさん上映してきましたし、女性監督の作品の割合も高い。ただ、狙ってやっていたわけではなく、アジア映画界の自然な流れのなかで最先端の映画を集めたらこうなったという結果に過ぎません。

 

── そのなかで、おすすめを挙げるとすれば?

先ほど紹介した『君と僕の5分』や台湾の短編映画の『晩風』、あとはフィリピン映画の『そして大黒柱は……』ですね。主人公を演じているのはフィリピンが誇るトップスターのバイス・ガンダ。女優とも男優ともカテゴライズし難い俳優で、本作では一見、女性役です。とはいえ、「クィア俳優が女性を演じています」といった特別感はなく、男性か女性かの分類を越えて当たり前のように人間として存在している。それがおもしろいところですね。

また、家族を支えるために出稼ぎをしているこの主人公の姿には、“一家の大黒柱は男性”といった概念もありません。すべてが曖昧で、ボーダレス。この映画はフィリピンの大人気グループ、SB19のヒット曲「マパ」を主題歌にしているのですが、劇中でもしばしば「ママ」「パパ」ではなく「マパ」という台詞が出てきます。それが今のフィリピンらしいところです。

特別注視部門『そして大黒柱は……』

 

クロージングは話題の「桐島です」を世界初上映!

── クロージング作品「桐島です」も話題作です。

オープニングかクロージングのどちらかに日本映画を入れるようにしていて、今回はクロージングに本作を選びました。世界ではじめて上映するワールドプレミアです。

「桐島です」は、連続企業爆破事件に関与したとして指名手配され、去年死亡した桐島聡の人生をベースにしている作品です。監督の高橋伴明さんは75歳で、モデルとなった桐島が事件を起こした時代を肌で知っています。そのためか、当時の空気感を巧みにとらえて表現しています。スキャンダラスな事件として描くのではなく、その時代を映す映画になっています。また、人間描写に優れている高橋監督らしく、主人公の桐島はもちろん、周囲の人々が丁寧に描かれているのも魅力です。

 

── 主演は去年の大河ドラマでも話題を集めた毎熊克哉さん。

この映画が成功し得えた要因のひとつは、毎熊さんが主役を引き受けてくれたことです。ほかの人ではここまでできなかったのでは? と感じさせます。指名手配写真でみんなが顔を知っている1970年代の桐島へのなりきりぶりもすばらしいし、その後にまったく知らない土地で手配写真と似ても似つかない顔と格好で生きているときの桐島も見事。キャラクターに一貫性があって、見た目が変わっても「同じ桐島である」ということが説得力をもって伝わってきます。この作品は毎熊さんの生涯の代表作になるでは? と思っています。

 


クロージング作品「桐島です」 高橋伴明監督&毎熊克哉さんコメント

小さな町の小さな小屋でひっそりとかかっているような、そんな映画だと思っていました。誰よりも桐島自身が一番驚いているのではないでしょうか? ひそやかな沈黙の映画が誰かにそっと届けばうれししいです。

高橋伴明(監督)

 

このたび 「桐島です」 が数ある作品の中から第20回大阪アジアン映画祭のクロージング作品として上映されることになり、 大変光栄に思っております。 桐島聡が過ごした半世紀にわたる逃亡生活を演じながら、 自分が生まれる前の時代のこと、 現代、 これから訪れる時代のことに想像を巡らせました。 彼らは何に怒り、 憂いていたのか…。

善悪をつけることではなくて、 この映画をきっかけに”想像すること”が広がっていけばうれしいです。きっと我々は無関係ではないはず。

大阪から日本全国へ、 そして世界中に届いていくことを願っています。

毎熊克哉(主演・桐島聡役)


クロージング作品『桐島です』 ©️北の丸プロダクション

 

── 最後に、この映画祭を楽しみにいているファンへのメッセージをお願いします

多くの人は、観たい映画のチケットを事前に購入して会場に足を運ぶと思いますが、映画祭の楽しみ方はそれだけではありません。たとえば、たまたま空いた時間に上映されている映画を、ふらりと観てみるのもおすすめです。その作品は、あまり興味がないストーリーかもしれませんが、激戦を勝ち抜いて映画祭に選ばれるだけの魅力や驚きが必ずあります。

 

── ふらりと入った会場で知らない映画と出会えるのも、映画祭の魅力ですよね。

わたし自身も、数多くの映画祭に参加するなかで、そうやって新しい映画と出会ってきました。人気作や話題作でなくても、映画祭に選ばれる作品は選ばれるだけのすばらしい要素をもっています。きっと何かに惹きつけられるはずなので、積極的にいろいろな作品を観てほしいですね。

第20回大阪アジアン映画祭

2025年3月14日(金)〜3月23日(日)、ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館1Fホールにて開催。

チケット発売:2025年3月6日(金)より

公式サイト:https://oaff.jp/oaff2025/

masami urayama

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