映画『フェラーリ』 F1界の帝王の人生、情熱と狂気のフェラーリ・オペラ。

魂が、高鳴る。─── F1界の帝王と呼ばれた男、エンツォ・フェラーリの人生を圧倒的熱量で描いた映画『フェラーリ』が7月5日(金)からロードショー。

手掛けたのは、巨匠マイケル・マン監督。構想30年の執念の企画を実現するため世界中から出資者を募り、インディペンデント作品としては破格の超大作を完成させました。

エンツォ・フェラーリの、マイケル・マン監督の、“情熱と狂気”がかけ合わさったフルスロットルの映画。暑い夏に、帝王の熱く濃密なドラマをぜひ!

 

帝王の知られざる肖像と、激動の一年を描く。

イタリアには〈帝王〉と称される人が多いような気がします。モード界ならジョルジュ・アルマーニ、サッカー界ならシルヴィオ・ベルルスコーニやルチアーノ・モッジなど…どの御方も実力と権力を兼ね備え、おのれの欲望に正直でアクが強い。その姿には嫌悪感を覚えたりもしますが、反面、とっても魅力的でもあります。

そんなイタリアにあって〈F1界の帝王〉と呼ばれたのが、本作の主人公エンツォ・フェラーリ。いわずと知れた高級スポーツカーメーカー「フェラーリ」の創始者です。

エンツォはレーシングドライバーから、チームマネージャーやカーデザイナーを経てフェラーリ社を設立。イタリア屈指の自動車メーカーへと成長させた稀代の経営者ですが、その私生活は謎に包まれています。1988年に90歳で亡くなってからも多くの噂や憶測が飛び交い、現在も毀誉褒貶に晒され続けているのです。

 

エンツォ・フェラーリの知られざる肖像に魅せられたのが制作・監督を務めたマイケル・マン。オスカー候補となった『インサイダー』など数々の傑作を世に送りだしてきた巨匠は「エンツォ・フェラーリの類稀なる人生」が製作を決めた一番の理由だとし、「彼の人生にはバランスや安定というものがない。工場やレースに関しては論理的で合理的だったが、私生活は衝動的かつ防衛的で秩序のないものだった。このアンバランス感や矛盾こそが、エンツォや他の登場人物たちを人間味あふれる存在にしている」と語っています。

映画『フェラーリ』の一場面

稀有な90年の人生を送ったエンツォ・フェラーリ。映画では1957年、彼のターニングポイントともいえる59歳の一年間を描いています。

1947 年に妻ラウラとともにフェラーリ社を設立したエンツォは、レーサーやエンジニアたちから「コメンダトーレ(社長)」と呼ばれて親しまれている経営者で、地元の名士にもなっています。

しかし、設立から10 年が過ぎた1957 年、競合他社がフェラーリのスピード記録を破りはじめたことから乗用車の売り上げは減少。業績不振によって破産寸前に陥り、競合他社からの買収の危機に瀕しています。

私生活では前年に愛息ディーノを亡くして妻ラウラとの関係は冷え切っており、その一方で愛人リナと息子ピエロを郊外に住まわせて二重生活を送っています。

会社経営でも私生活でも八方塞がりになっているエンツォ。レースを愛し、情熱をそそぐ彼は、大きなレースに勝てば現状を打破できると考え、すべてをかけてイタリア全土 1000 マイルを縦断する公道レース「ミッレミリア」に挑戦。その先に待ち受けていた運命も知らずに───。

映画『フェラーリ』の一場面

 

当時のレースシーンを再現。そして、ふたりの女性との愛憎劇も。

フェラーリの社運をかけて挑んだ、ミッレミリアレースの再現も本作の大きな見どころ。3Dスキャンなど現代の技術を使って完成させた1950年代のフェラーリやマセラティを思わせるマシーンが当時を感じさせる風景のなかを疾走する姿はカッコよく、車が走る抜ける音もスピード感満点。臨場感たっぷりのレースが映像のなかで繰り広げられ、ワクワクします。

映画『フェラーリ』の一場面

 

とはいえ、本作は車の映画ではありません。描いているのはエンツォ・フェラーリの人生。そして、彼の人生に大きく関わっている“ふたりの女性”のお話でもあります。

ひとりは妻のラウラ。フェラーリ社を共同で設立するなど公私ともにパートナーでしたが、息子であるディーノを難病で失った現在、夫婦関係は破綻しています。もうひとりは愛人のリナ。エンツォからの愛情は受けていますが、息子のピエロが12歳になっても認知されていないことに不安をもっています。

どちらも強く美しい、魅力的な女性。煮えきらない男に振り回されなくてもいいと思ってしまうのですが、愛憎交えた感情を捨てきれずに関係をつづけています。(アダム・ドライバー演じるエンツォがそれだけ魅力的だということと、イタリアは宗教の影響で離婚しにくいというのも理由にあるのですが)

袋小路に入ったかのような3人の大人たちの関係を、俳優たちはすばらしい演技で表現しています。とくに妻のラウラを演じたペネロペ・クルスの冷めた態度を取りつつ感情的になる表情が秀逸で、見ているこちらの気持ちにもジワジワと哀しみが広がっていきます。

映画では印象的にオペラが登場し、登場人物たちの過去と現在をシンクロしていきます。イタリアで誕生したオペラは歌で感情を表現する演劇で、わかりやすいセリフがないぶん、喜怒哀楽のドラマを濃密に伝えてくれます。

本作はある意味、フェラーリのオペラ。情熱と狂気の人生をドライブした男の生き様は、やはり、魅力的に映るのです。

映画『フェラーリ』の一場面

 

映画『フェラーリ』

2024年7月5日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、kino cinema神戸国際などで公開。

公式サイト:https://www.ferrari-movie.jp/

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masami urayama

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