ヴィッセル神戸 岩波 拓也 選手
少年時代、ヴィッセル神戸が大好きだった。
アカデミーに入って、憧れていた北本選手たちと一緒にプレーした。
17歳のワールドカップ、あの喜びと悔しさは忘れない。
チーム生え抜きのセンターバックは、18歳でJ1デビューし
今季はチーム初のタイトルとオリンピック代表を賭けて試合に臨んでいる。
夢は、世界で戦うこと。
ヴィッセル神戸の至宝、岩波拓也、二十歳のシーズン。
大観衆のスタジアムで
トップクラスの選手と戦う。
−−まずは、今シーズンのヴィッセル神戸について。
「自分たちがボールを保持して相手を崩すイメージでプレーしています。ぼくはそういうサッカーが得意なので、すごくやりやすいし、楽しい。チームの雰囲気も、若手同士は仲がいいですし先輩たちも良くしてくれるので、それがピッチに入ってもあまり緊張せずにプレーできる理由だと思います。今シーズンはタイトル獲得を目標に戦っています」
−−1年ぶりのJ1、岩波選手はかなり身体を鍛えて臨みました。
「J2だった昨シーズンの終わり頃、ある人から『その身体じゃJ1では戦えない』と言われました。それが自分の中で響いていて。言われたことは悔しかったけれど、実際にJ2の中で当たり負けることが何度かあって自分自身も感じていたことだったんです。ちょうどケガをしていたタイミングだったので、今がチャンスだと思ってトレーニングを始めました。サッカーができなくて筋トレばかりだったけど、それも楽しかったです。今、J1でプレーしていて当たり負けることもあるけれど、自分が弱いと感じることは少なくなりました。もしも去年の身体のままで戦っていたら今シーズンどうなっていたかわかりませんから、あの時ぼくに言ってくれた人にはすごく感謝しています」
−−ケガでサッカーができない焦りはなかったですか?
「シーズン中盤のケガだったら焦っていたかもしれません。でも、ケガをしたのがシーズン終盤だったし、チームの昇格は信じていたので、次のJ1の舞台に向けてぼくは身体づくりを始めているんだと切り替えてやりました。その意味では運もあったと思います」
−−“持っている”ほうですか?
「そうですね、運はあるかなと思っています。たとえば、オリンピック代表候補に入っていて、手倉森監督が視察に来られた試合ではだいたい得点しているとか。意図したことではないのですが、そういうことはありますね」
−−ご自身のプレーの強みは何ですか?
「ボールをつなぐことにすごく自信があるので、キックやビルドアップの部分をたくさん見せていきたい。ゴールの起点になるいいパスが出せるように、いつも遠くを見るように意識しています。CBは経験が必要なポジションだけど、昨年J2で1年間戦えたのは自分にとってすごく良かったし、J1ではフォルラン選手(C大阪)をはじめ、世界トップクラスの選手とプレーできます。やられてしまう場面もあるけれど、やられないとわからないこともある。J1は、自分をすごく成長させてくれていると思います」
−−岩波選手はもともとDFだったんですか?
「たまに違うポジションもありましたが、これまでほとんどDFでした。FWみたいにどんどん前に出ていくタイプではないですし。DFというポジションには自分でもすごく可能性を感じていて、やり甲斐もあります。すごいと言われている選手を抑えて無失点で勝った時はすごく気持ちがいい。そこがDFの楽しさかなと思います。ぼくはまだあまり感じていないですけど(笑)」
−−素晴らしいプレーをたくさん拝見しましたよ。対戦相手のDFにも注目されていますか?
「結構見ています。一番印象に残っているのは闘莉王選手(名古屋)。仲間にすごく要求するし、自分もすごいプレーをする。ぼくはタイプが少し違いますけど、とにかくすごい選手だなと思いました」
−−では、これまでで印象に残ったマッチアップは?
「フォルラン選手(C大阪)です。4月に対戦した際に2ゴール決められたのですが、その2ゴールのうち1ゴールはぼくのマークのところからやられてしまいました。※ ぼくも足を出したんですけど、ここしかないというコースに決められて。すごいなと思いました。セレッソ大阪との対戦はとても楽しみにしていました。昨年の天皇杯で負けた悔しさもあるし(0-4で敗戦)、若手も育っている。そこを相手に自分がどれだけできるのか。それに関西ダービーでスタジアムも満員になります。あの大観衆の中でプレーできたことで、自分がまた成長できると思いました」
※J1第9節ヴィッセル神戸vs.セレッソ大阪。2-2のドローとなった一戦でフォルラン選手は2ゴールをマーク。
大好きなヴィッセル神戸で、今、
憧れの選手たちとともに戦う。
−−もともと神戸っ子ですね。サッカーを始めたのはいつ頃ですか?
「小学校1年生の時です。父の影響で兄がサッカーを始めた時、ぼくも一緒に始めました。サッカーに関しては、練習も、勝負に対する姿勢も、父はとても厳しかった。サッカーをやめたくなる時もありました。でもその中でサッカーの楽しさもすごく教えてもらいました。今、フィードがいいと言われますが、それこそ小さい頃からキックの練習をしてきたからだと思います」
−−お父さんの存在は大きい?
「すごく大きいです。直接サッカーを教わったのはヴィッセル神戸のアカデミーに入るまででしたが、サッカー選手になりたいと思ったのは父の影響です。それに、2歳上の兄がいたから、ぼくは小学校1年生という早い時期からサッカーを始められました。自分のサッカー人生の中で、父や、兄や、家族の存在は本当に大切で、すごく感謝しています。そういった意味では家族のために頑張って、親孝行したいと思います」
−−では、ヴィッセル神戸はどんな存在だったでしょう。
「ヴィッセル神戸が大好きで、ホームゲームはほぼ毎試合応援に行っていましたし、練習もよく見に行っていて北本選手にサインをもらったりしていました。アカデミーに入って、憧れていたトップチームの選手たちと初めて一緒にプレーしたのが高校2年生の時です。すごく嬉しかったですし、今、練習を見に来てくれている子どもたちとも、いつか一緒にプレーしたい。それでヴィッセル神戸がもっと強くなればと思います」
−−ヴィッセル神戸のアカデミーでの手ごたえは?
「アカデミーでは、いろいろな方に指導していただきました。長谷部監督(長谷部茂利コーチ)、黒田監督(黒田和生氏・元アカデミー事業本部長・U-18監督)、野田監督(野田知U-18監督)、その中で、誰が監督でも試合に出続けられたことは、すごく自信になりました。プロの世界では、誰が監督になっても試合に出続けることが大切だと思います。その意味でもアカデミーはすごくいい経験になりました」
日本を背負うCBが見つめる
「世界」という風景。
−−ユースでは常に年代別代表に選ばれてきました。
「代表でプレーできることほど幸せなことはないと思っています。それが10代の日本代表であってもすごく誇りを感じているし、継続して選ばれてきたことは自信にもなっています。アジアや世界で戦えたこともすごくいい経験です」
−−2年後にはオリンピックがあります。
「代表は集まれる期間が短いので、その中でしっかりアピールしていきたい。あとは、Jリーグで活躍すること。毎試合毎試合いいプレーをすることが、やはり代表に近づくと思います」
−−代表候補のライバルたちの中で岩波選手の武器は?
「気持ちです。もう一度世界で戦いたい。U-17ワールドカップに出場して、世界で戦う素晴らしさと悔しさを知った分、もう一度、という気持ちは誰よりも強いです」
−−2011年の大会ですね。日本はベスト8。岩波選手はキャプテンでした。
「あの時のぼくたちは、監督、選手、チーム全員が力を合わせて、本当にいい戦いができていたので、最後には開催国メキシコの人たちも応援してくれました。でもその中で、準々決勝でブラジルに負けてしまった。ブラジルの選手たちがスタジアムに入って来た時から圧倒されたのを覚えています。カナリア色のユニフォーム、勝負に対する姿勢、同じ17歳なのに何十億という移籍金で世界を渡り歩く選手もいる。そんなチームとあの舞台で戦えたのは大きかった。試合には負けたけれど、もう一度世界に挑戦したいと思ったし、そのために、もっとレベルアップしないといけないこともわかりました」
−−プレッシャーはなかったのですか?
「ぼくはあまりプレッシャーを感じないほうです。それに、プレッシャーを感じてもいいプレーはできません。U-17ワールドカップでも、プレッシャーを感じるよりもあの舞台で戦えることが嬉しくて、それを本当に楽しむことが出来ました。だからこそ、フランス、アルゼンチン、ジャマイカを相手にして、予選リーグを突破することができたと思います」
−−世界への想いを持ちながら、今回のワールドカップもご覧になりました?
「ほとんど見ました。やっぱりワールドカップはいいですね。南米のチームはスピードも技術もあって、すごくいいサッカーをしている。でも最終的には優勝したドイツでしょう。組織力があってタレントも多く、穴がない。見ていてすごく勉強になりました」
−−CBでは誰に注目しましたか?
「チアゴ・シウバ(ブラジル代表)やフンメルス(ドイツ代表)です。ゴール前の攻防、最後のシュートブロックの部分などで、すごさを感じました」
−−これからのCBに求められるものは、何でしょうか。
「今、サッカーのスピードが全体的に上がっている中で、チアゴ・シウバのように、いいCBは一人で相手の攻撃を止める力があります。ぼくも一人で止められるCBになりたいし、そうなっていかないといけない。1対1の部分は自分の課題だと思っているので、そこはすごく意識して取り組んでいます」
−−海外でプレーしたいという思いはありますか。
「気持ちはあります。今、たくさんの日本人選手がヨーロッパに移籍していますし、ぼくも海外で自分を挑戦させてみたい。日頃から世界トップレベルの選手たちと対戦し活躍できれば、いつか日本代表のワールドカップで力になれると思います。でも、まずはヴィッセル神戸でしっかりプレーしてタイトルを獲ること。そしてオリンピック代表に選ばれることです。オリンピックには必ず行きます。そこから海外へ、そしてワールドカップへ。それが今の僕の夢です」
Text by Michio KII