長編第一作『メアリと魔女の花』で鮮烈なデビューを飾ったスタジオポノックの最新作『屋根裏のラジャー』が12月15日(金)から全国公開されます。
イギリスの詩人・作家のA.Fハロルドの「The Imaginary」を原作とし、想像から生まれた少年・ラジャーとイマジナリフレンドたちによる現実と想像が交錯する世界で繰り広げられる大冒険を、スタジオポノックの圧倒的なアニメーションで描いた超大作。ラジャーたちが躍動するイマジナリの世界は、この冬をきらめかせ、心をほわっとあたためてくれます。
12月2日(土)には大阪で親子試写会を開催。上映後にはラジャーの声を担当した寺田心さん、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーが登壇し、ティーチイン付き舞台挨拶を実施しました。
イマジナリたちを道頓堀川に飛び込ませておけばよかった…。
会場となった大阪ステーションシティシネマには、多くの子どもたちと大人たちが集合。スタジオポノックが描くイマジナリの世界を存分に楽しみました。
試写会後には主人公であるラジャー役の寺田心さん、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーが登場。最初のあいさつで来場のお礼を伝えると、この日のMCを担当する渡邊幹也さん(読売テレビアナウンサー)から大阪の印象を聞かれます。
名古屋出身で大阪にはよく来ているという寺田さんは食べ物のおいしさに魅了されているといい、「たこ焼きや豚まん、チーズケーキ。最近は毛糸で編んだようなモンブランが流行っていると聞いて気になっています。ぼくはケーキづくりが好きなので、食べて、つくってみたいです」と最新スイーツにも興味津々のようです。
つづく、百瀬監督は「大阪にはたびたび来ていて、吉本新喜劇を観たりもしました。あと、天王寺動物園もよかった。とても暑い夏の日で、動物園中でセミが鳴いていました。その鳴き声が何十年ぶりに聞いたかというくらいすごくて、とても印象に残っています」と語り、百瀬監督がアニメーション化する〈天王寺動物園の夏の日〉をイメージさせてくれます。
3人目にマイクを手にした西村プロデューサーは実現しなかった企画を明かし、「実は脚本をつくっているときに、あるシーンの場所を道頓堀にしようという案がありました。イマジナリが道頓堀川に飛び込むようなシーンがあったら、おもしろいと思って。結局はやらなかったのですが、今年は〈アレ〉があったじゃないですか。やっておけばよかった」と悔やんでいました。
大人にも、きみのステキなものが見えているよ。
今回の試写会・舞台挨拶では、観覧者と登壇者が質疑応答するティーチインの時間をたっぷりとっています。会場の子どもたちに呼びかけると、最初に手を上げたお子さまから「この映画、また観たいです!」と元気いっぱいの声が届きます。質問ではなかったのですが、子どもの素直な感想は会場をあたたかい空気で包み、自然に拍手が起こっていました。
その声をきっかけに子どもたちは活気づき、「質問のある人」とMCが投げかけると「はい!」と挙手する子どもが増えていきます。
「この映画でこだわったところはありますか?」
寺田さん「ぼくはオーディションでラジャーの役をやるようになったのだけど、オーディションのときにいただいた一枚の絵とセリフが、この映画の最初に登場する〈見たこともない鳥、見たことのない花、見たこともない風。見たこともない夜。そんな素敵なもの見たことある〉でした。このセリフにはとても考えさせられたし、緊張もしました。むずかしかったですね」
百瀬監督「イマジナリというのは想像した人間からは見えるけど、第三者からは見えない存在。『屋根裏のラジャー』は、その第三者である我々がイマジナリたちを目撃できる映画です。見えなかったものが見えるので、イマジナリたちには輝きをもって存在してもらいたいと考えていました。(この映画は)彼らをどう描くかが出発点で、それがむずかしかった。でも、うまく行けばおもしろくなるから、こだわりがいがありました」
西村プロデューサー「子どものときにだけ あなたに訪れる 不思議な出会い♪という(となりのトトロの)歌があるのだけど、ぼくは小さいときにそれを聴いたとき、“子どものときにだけステキなものに出会える”と思っていました。でも、この映画では〈そうじゃないよ〉っていいたかった。大人になってもステキな出会いはあるし、ステキなものが見つかります。〈隣にいるお母さんにも、きみのステキなものが見えているよ〉ということを伝えたかった。それがぼくのこだわりです」。
ぼくにもイマジナリはいたよ!
会場の子どもたちからの質問はバラエティに富み、映画に登場するキャラクターへの素朴な疑問から大人が考え込んでしまうような鋭い質問も飛び出します。
「寺田心さんにイマジナリはいましたか?」
寺田さん「いたことがあります。コロちゃんという黄色いクマのぬいぐるみがいて、ぬいぐるみだから他の人からは見えていたけど、ぼくがその子と話したり、想像の世界で遊んだりしていたのは内緒。秘密のお友だちという感じで、コロちゃんはいつもそばにいました。だから、ぼくにもイマジナリはいたよ!」
「この作品を通して、みなさんが学べたことはありますか?」
西村プロデューサー「みんな子どもから大人になると、小さいころのことを忘れてしまいます。でも、それは〈忘れることではない〉と思いました。名前を忘れてしまった保育士さんや近所のお姉さん、おばさん、おじさん、そういう方々がいたおかげでぼくは生きています。それに小さいころ『火垂るの墓』という映画を観ていなかったら、ぼくはアニメーション映画をつくろうと思わなかった。〈たとえ忘れられても、ちゃんと自分のなかに残っている〉ということをラジャーたちに教わりました」
百瀬監督「日々学びです。アニメーションの場合はアニメーターが描いて、色を塗って、仕上げて、撮影してというふうに作業工程がたくさんあって、やりとりをうまくやらないと仕上がったものが全然違ってきます。また、アニメには美術というものもあって、作品の雰囲気を決定するから描き手はすごく悩みます。描く人が悩んだとき、監督は(方向性を)示して答えをいっしょに見つけるのだけど、うまくいわないと伝わりません。こういうふうにしてほしいと指示をだしながら、ぼく自身が学んでいるのだと思います」
寺田さん「ぼくは絶賛反抗期で今は余計な思考が入るけど、ラジャーは何事も素直にとらえて、何に対しても真っすぐで諦めません。いつでもラジャーのようにいられたらと思っています」
自分の夢のための努力は、ちょっとずつやればいい。
ティーチイン終盤の質問では、子どもたちが成長していくうえでの指針になるような言葉が寺田さんの口から伝えられます。
「自分の夢のために、どんな努力をしていますか?」
寺田さん「何事に対しても諦めない気持ちや好きな気持ちをもつことは大事だと思っています。あと、学校の校長先生が教えてくれた〈時間は有限、努力は無限、後悔は永遠〉という言葉あって、確かに本当だなと感じています。中学でも、とにかく時間がありません。友だちと遊んでいたらすぐに時間が過ぎ、あっという間に中学3年生になってしまいました。
でも、〈塵も積もれば山となる〉という言葉があるように、少ない時間のなかでも毎日ちょっとずつやればいいんです。ぼくは将来、俳優と獣医師の二足のわらじでがんばっていきたいと考えているから、ちょっとの時間、30分でも10分でも勉強しています。それに、街を歩いていてご当地の食べ物を見つけたことで、その地域の特産品を知ったりできます。日常のなかで、少し気になったことを勉強してみるのもいいかもしれませんね」
〈屋根裏のラジャー・ストーリー〉
彼の名はラジャー。世界の誰にも、その姿は見えない。なぜなら、ラジャーは愛をなくした少女の想像の友だち《イマジナリ》。しかし、イマジナリには運命があった。人間に忘れられると、消えていく。
失意のラジャーがたどり着いたのは、かつて人間に忘れさられた想像たちが身を寄せ合って暮らす《イマジナリの町》だった―。
映画『屋根裏のラジャー』
2023年12月15日(金)から、TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸などで公開。
■公式サイト:https://www.ponoc.jp/Rudger/