映画『ABYSS アビス』舞台挨拶 「予想を遥かに超える作品になった」

この恋と、沈むだけ───渋谷という都会の喧騒と海の静寂を行き来する若者の〈傷〉と〈再生〉を描いた映画『ABYSS アビス』が10月20日(金)から公開されています。

誰しもが心の奥底にもつ破壊願望と、その願望がなんとか自身を生かしてくれる希望となっている残酷な現実。その現実に巣くうしかない若者の純愛物語を鮮やかな映像美と音楽で描く本作は、いつのまにか観る者を漆黒の海の深淵に招き入れるDIVE(没入)感を味わわせてくれます。

公開翌日となる10月21日(土)には大阪で舞台挨拶を開催。監督・主演の須藤蓮さんと共同脚本の渡辺あやさんが登壇し、困難を極めた完成への道のりや公開できた今の想いなどを熱く語ってくれました。

 

駆け出しの俳優だった彼が、脚本の切れ端を送ってきたのがはじまり。

舞台挨拶の会場となったのは、現在、映画『ABYSS アビス』が公開されているシネ・リーブル梅田。スクリーンと客席の間に柵がある少し変わった仕様の劇場で、監督・主演を務める須藤蓮さんは「ぼくが暴れないようにするための配慮なのかな」と笑いを誘いつつ、「本日は観ていただいてありがとうございます」と感謝を伝えます。

つぎに、須藤さんとともに脚本を手掛けた渡辺あやさんがあいさつ。西宮市出身の渡辺さんにとって、梅田は小さなころから遊びに来ていた街。さらに、2014年までシネ・リーブル梅田の場所で開館していた梅田ガーデンシネマは、渡辺さんのデビュー作『ジョゼと虎と魚たち』を上映した劇場のため「思い出深い場所に今日こうやっておじゃまできてうれしい」と喜びます。

 

須藤さんと渡辺さんはドラマ・映画『ワンダーウォール』の主役と脚本家として知り合い、その後、須藤さんの監督デビュー作『逆光』でもタッグを組んでいます。今回の『ABYSS アビス』は須藤さんが自身の書いた脚本を渡辺さんに送ったことがきっかけになっているそうで、「4・5年ぐらい前にまだ駆け出しの俳優だった彼が、急に脚本の切れ端みたいなものを送りつけてきて、わたしは〈忙しいから〉って突っ返したんです。それがはじまり」と渡辺さん。しかし、須藤さんはへこたれずに修正した脚本を送り返します。それを受けた渡辺さんは「若い方から脚本が送られてくることがあるのですが、わたしが厳しいことをいうとみんなそれっきりでいなくなってしまいます。でも、須藤くんは書き直して何回も送ってくる。根性があるなと思いました」。もちろん、須藤さんの根性だけを見込んだわけではありません。「おさまりのいい優等生なものを書こうとしているのではなく、彼自身の生々しい体験や自分の知っている人たちのことを書こうというのが伝わってきた。おもしろくなる可能性があるなと思ってやり取りをし、一本の脚本に仕上げました」。

本作は現代の若者の残酷で痛々しいリアルを描いているのですが、根底にはたくましさやあたたかさが流れ、かすかな希望も見いだせます。この二人だから紡ぐことのできた物語だということが、渡辺さんの言葉からも感じ取れました。

映画『ABYSS アビス』舞台挨拶での須藤蓮さん

 

「試写会・須藤蓮逃亡事件」も起こした。

脚本が完成しても映画はできません。映像化する監督が必要です。渡辺さんの勧めで須藤さんがメガホンをとることになったのですが、「制作過程はとてつもなく大変だった」と須藤さん。しかし、自身のキャラクターが過酷さを救ったと明かし「ぼくは1日でつらかったことを忘れる体質。普通だったら、ここで(心が)が折れちゃうだろうなというタイミングが10回や20回はあったのですが、走り切れちゃいました」と振り返ります。渡辺さんも「彼はものすごく過酷な課題を自分で設定して、ボロボロになりながら登っていく。(本作は)わたしの予想を遥かに超える作品になったと思っています」と絶賛します。

とはいえ、須藤さんはいろいろ事件を起こしたそうで、そのひとつが〈試写会・須藤蓮逃亡事件〉。「いろんな方をお呼びして試写をしたのですが、上映したのがただ素材を並べただけの状態のもの。途中から冷や汗が止まらなくなって逃げました」と白状し、「今日ここに立てているのは、本当に運がいいなと感じています」としみじみ口にします。

 

そもそも、監督と主演を同じ人がやるのは「とんでもなくむずかしくて、特別な方だけに許されること」と渡辺さん。多くの役割を求められ、須藤さんも「頭で考えてやれるかなと思ったけど、やってみるとバランスが取れなくて現場でパニックが起きた」と告白します。しかし、そこで諦めないのが須藤連です。「自分で芝居がしたくて書いた本なので自分がでない選択肢はなかったし、前作の『逆光』を撮っているから監督もやりたくなっていた。自分で演技をしてOKかNGを出す、むずかしかったのですが、すごく心地いいことでもありました」と語り、困難でありながらも充実していた制作の日々をうかがわせます。

映画『ABYSS アビス』舞台挨拶での渡辺あやさん

 

詰め込めるだけ詰め込み、削ぎ落とせるだけ削ぎ落とした作品。

映画『ABYSS アビス』には、主役のほかにも魅力的なキャラクターが登場します。そのひとりがアスカ。登場シーンは多くないのですが、とても印象に残る女の子です。彼女を創造した須藤さんは「渡辺さんにボコボコにされながら、なんとかひねりだしたキャラクター」だったと打ち明けますが、当の渡辺さんは「ケイとアスカのやり取りはイキイキとしていて、わたしには書けないシーン」と高く評価。さらに「わたしはすごく大事にしたかったのに、監督はそうではなくて〈これいる?〉といいだしたりしていました。絶対に残したいと思って残したら、案の定、観てくださった方から〈アスカが一番好き〉という声があがっています」と教えてくれます。本作を鑑賞する方は、ぜひアスカの愛らしさをチェックしてみてください。

 

和気あいあいとしたトークが繰り広げられた舞台挨拶も終わりの時間がやってきます。まずは須藤さんがマイクをとり、本作への想いを伝えます。「自分の体験だったり、感じていたりすることを詰め込めるだけ詰め込み、削ぎ落とせるだけ削ぎ落としてつくった作品です。まだ自分のなかで消化しきれていないので、みなさんの感想をいただきながら理解しているところです。もしよかったら観た感想をSNSなどにあげてください。ぼくも、渡辺さんもチェックしますので。どうぞよろしくお願いします」。

最後のあいさつを託された渡辺さんは、映画づくりの仲間として、先輩として、苦難の末に本作を完成させた須藤さんへのエールとなる、あたたかい言葉で締めます。「今回、はじめて須藤蓮をご覧になった方もいるかと思います。わたしは脚本家をはじめて20年くらいになり、(須藤さんは)そのキャリアのなかでもめずらしい才能をもった人だと思っています。成功するときは華々しく成功するのですが、失敗するときも派手に失敗します。それを見かけたら笑ってやって、そしてあたたかく見守っていただければ。よろしくお願いいたします」。

映画『ABYSS アビス』舞台挨拶の様子

 

また、京都では10月25日(水)に六曜社珈琲店で「昭和失恋喫茶」が開かれるなど、映画『ABYSS アビス』にちなんだイベントが予定されています。

最新情報はこちらのInstagramや公式サイトでご確認ください!

https://www.instagram.com/abyss_fol_film/

 

 

映画『ABYSS アビス』

シネ・リーブル梅田、出町座、シネ・リーブル神戸で公開中。

■映画公式サイト: https://abyss-movie.jp

© 2023『ABYSS アビス』製作委員会

masami urayama

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