“くるり”が“くるり”になるために───多彩な活動を通じて日本のロック・シーンで異彩を放ってきた「くるり」。バンド初のドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が10月13日(金)より、なんばパークスシネマ、MOVIX京都などの全国劇場3週間限定公開&デジタル配信されます。
公開に先駆け、10月12日(木)に先行上映会 in 京都をMOVIX京都で開催。くるりのオリジナルメンバー3人が登壇し、ほっこりしつつも芯の通った、くるりらしいトークを聞かせてくれました。
10年前くらいにトム・ハンクスの映画をメンバーと観た場所。
くるりは、立命館大学の音楽サークルで出会った岸田繁さん(Vo&Gt)、佐藤征史さん(Ba)、森信行さん(Dr)が1996年に結成したロックバンド。1998年にメジャーデビューを果たしたあとも特定のジャンルや形態にとらわれずに活動し、彼らにしか鳴らせない音楽を発表しつづけています。
『くるりのえいが』は、2002年にバンドを脱退した森さんが再び参加し、結成当時のメンバーで制作したニューアルバム『感覚は道標』の現場に密着した、くるり初のドキュメンタリー。メンバーたちがどのように創作と向き合い、それぞれの音を奏でながら音楽をつくっていったのか、その過程をフラットな視点で追い、ありのままの姿を映しだしています。
そんな、“くるりの今”が見える映画が完成。ホームタウンである京都での先行上映会には、メンバー3人が登場しました。最初にあいさつした岸田さんは、「舞台挨拶に慣れていないので、見た目以上に緊張しています」と普段のライブとは違う雰囲気に少しとまどっている様子。つづく佐藤さんは会場となったMOVIX京都には10年くらい前に来たことがあるといい、「トム・ハンクス主演の映画『クラウドアトラス』をメンバーと観ました。その次に来たのが今回の『くるりのえいが』。感慨深いですね」と登壇した気持ちを伝えてくれます。
最後にマイクを手にした森さんは、2002年にバンドを脱退しています。「ぼくのいたくるりを知っている方はいらっしゃるのなかな?」と心配するも、会場から“知っている”と多くの手があがると「あぁうれしい!」と満面の笑顔に。そのうえで「ぼくがいたころのくるりを知らない方もいると思うので、そういうところも含めて楽しんでいただけたら」とあいさつしました。
感覚をみんなで共有でき、チームワークにつながった。
この映画は、くるりの新作『感覚は道標』の制作を追うドキュメンタリー。伊豆にあるレコーディング・スタジオで寝食をともにしながら音楽をつくっていく様子が記録されています。アルバム・レコーディングの思い出を聞かれた岸田さんは、「(映画のなかでの食事に)エビフライがでてきたでしょ。すごく大きいのがひとり3匹で、そのうえ湯豆腐もあってメインが2つ。98年にデビューしてから、レコーディングでは弁当や牛丼が常であんな食事をしたことなかった。おいしかったです」と食事面での充実を口にします。佐藤さんも「朝ごはんのお味噌汁が一番の楽しみでした。赤だしに朝とれたようなワカメやメカブが入っている、伊豆でしか食べられないようなごちそう。最高でした」と絶賛。それを聞いた岸田さんは「同じ釜の飯を食うって言葉がありますけど、久しぶりに集まって同じごはんを食べて、同じところで寝て、“おはよう”っていってレコーディングする。そういう感覚が、音に反映していると思う」とメンバーとの共同生活が新作の音にいい影響を与えていたことを明かします。
久しぶりにレコーディングに参加した森さんも、合宿形式で取り組めたことは大きかったといいます。「リフレッシュするために伊豆の海に行ったら、風が気持ちええなぁとか、海がキレイやなぁとか、暑いなぁとか。感覚をみんなで共有できて、それがチームワークにつながっていた。そんなところも映画のなかに入っています」。
デジタルツールが発達している近年は、音楽制作もひとりで完結できます。しかし、今回のアルバム制作ではメンバーやスタッフたちが同じ場所に集い、意見を交換しながら愚直に音楽を重ね合わせていきます。そのことについて、岸田さんはこう語ります。「音楽制作はリモートでもやれてしまう時代で、コロナ禍で緊急事態宣言がでていたときは全部リモートでやっていました。でも、こうやって3人で顔を突き合わして制作できたのは非常に貴重で、懐かしくもある。なにより、“人と集まって音楽をつくるのは楽しい”という気持ちになりました」。その言葉からもバンドで音楽をつくるおもしろさが伝わり、観ている側も〈バンドっていいな〉と改めて思えます。
拾得でのライブは「全然、こなれていない感じ」。
オリジナルメンバーである森さんはバンドを脱退後、ライブでドラムを叩く機会はあってもレコーディングへの参加はしていませんでした。「久しぶりに入って、いっしょやなぁと思うところもあれば、すごく成熟していて新しいカタチが見られるところもあって、ものすごく新鮮な体験でした」と森さん。
そんな森さんとしばらくぶりに音楽制作をともにした佐藤さんは「4小節だけのイントロっぽいギターリフが流れてきただけで、自分のなかで未知数の道筋をつくってだしてくれる。やっぱり瞬発力のすごい人だと感じました」とその実力を改めて実感したそう。さらに、「今回は曲が生まれてからレコーディングまでの時間がめちゃくちゃ短かった曲もあったりして、曲のよさをみんなが忘れないうちに録れたところもよかった。個人で持ち帰っちゃうと、ベクトルがズレたりして元のよさがなくなってしまうこともあるし、もっくん(森さん)はよく忘れるんです。〈そういえばあのとき、こうしようと思ってたんや〉って(笑)」と森さんの愛すべきキャラクターもぶっちゃけてくれます。
また、映画にはレコーディングの光景以外でもくるりのさまざまな映像が盛り込まれており、2023年2月28日に開催された京都・拾得でのライブ映像も見どころのひとつ。ライブは森さんを加えたオリジナルメンバー3人で行われ、岸田さんいわく「全然、こなれていない感じ」のくるりが観られます。「最近のライブと比べて、BPM(テンポ)が20くらい上がってたんじゃないかな。こんなにいっぱいの曲をやってんのに時間があんまり経ってへんという(笑)」と佐藤さん。大汗をかきながら全速力で演奏するレアなくるりも必見です。
今後のくるりについては、ケ・セラ・セラ。
本作で制作過程に迫っているニューアルバム『感覚は道標』は、10月4日に発売されています。SNSなどを中心に多くの反響が届いているそうで、岸田さんも「すごく祝福いただいているという感覚をもっている」と喜びを口にします。
発売記念ツアーも決定しており、ツアー名は『ハードにキマる!つやなし無造作ハッピージェル』。「映画のなかでは、おぎゃあと生まれた瞬間が映っていますが、(完成した)アルバムはちょっと進化して青年ぐらいになっています。次のツアーでは、大人になった曲が見られるかもしれません」と語るのはレコーディング同様に参加が決まっている森さん。その横で岸田さんが「グレへんようにせんとね」と笑いながら突っ込むところも、くるりらしくてほっこりします。
さらに、これからのくるりの展望を質問された岸田さんは「今後どういうふうにしていこうかなとか、どういうことをやったらええんかなとか、たまに考えます。でも、なるようになるんやろうから、ケ・セラ・セラでございます」と自分たちのペースで音楽の旅をつづけていくことを宣言。そのうえで「『感覚は道標』というアルバムをつくって、そこで芽生えたものがいくつかあると思うし、(楽曲は)おぎゃあと生まれてからも成長していきます。その成長の過程を作者である自分たちが見守りながら、育てていく感じ。だから、ケ・セラ・セラなんです」と想いを伝えます。
また、最後のあいさつでは「お忙しいなか、お集まりいただきましてありがとうございます」と集まったファンたちに感謝を述べ、「気に入ったレコードやCDは繰り返し聴くと思います。(くるりのえいがは)音楽作品でもあるので、繰り返し観ていただけるといろんな発見があると思っています。長くつきあってやってください」というメッセージで締めてくれました。
映画『くるりのえいが』
MOVIX京都、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、kino cinema神戸国際、MOVIXあまがさきで公開中。
Amazon Prime VideoやU-NEXTなど配信事業者にてデジタル配信中。
■映画公式サイト: https://qurulinoeiga.jp/
©︎2023「くるりのえいが」Film Partners