この世界(ムラ)のなかで、今。―――日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞し、多くの話題作を手掛ける藤井道人監督と、日本映画を変革しつづけるスタジオ・スターサンズの制作チームが結集した映画『ヴィレッジ』。いよいよ4月21日から公開です。
主演は藤井監督の盟友ともいえる横浜流星さん。閉塞感のある村社会に人生を絡め取られる青年をリアルに体現しています。「村(土地)」と「人間」の逃れられない宿命に感情がかき乱される一本。きっと、今もどこかで息づいている〈きれいごとではない現実〉を目撃してほしい。
藤井道人監督×スターサンズ×横浜流星だから実現できた衝撃作。
映画『ヴィレッジ』を世に送りだすのは、藤井道人監督とスタジオ・スターサンズ。言わずと知れた映画『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』の座組です。この組み合わせなら、きっとディープで息苦しい映画になると思ったあなた! 大正解です。
今回は日本社会の縮図ともいえる「村」をテーマに、そこで生きる人々のどうしようもない現状と、生き残るために負担を余儀なくされる社会構造など、現代の日本(いやもしかしたら世界でも)が抱える闇を剛速球でぶつけられます。
物語の舞台は、とある日本の集落・霞門村。幻想的な夜霧がたちこめ、部外者から見ると美しい村に映ります。しかし、山頂に巨大なゴミの最終処分場がそびえ立ち、下にある家々を見下しています。まるで山間部のジオラマに、誰かが間違えて工業地帯のパーツを置いてしまったかのような違和感。不穏な臭いを漂わせ、ここがただの平和な村ではないことを示唆します。
横浜流星さんが演じる片山優は幼いころから霞門村に住み、今はこのゴミ処分場で働いている青年。かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、さらには母親が抱えた借金の支払いにも追われている優は、周囲からの理不尽な扱いも甘んじて受け入れ、喜怒哀楽をもたない死んだ目で日々をやりすごしています。自分が罪を犯したわけではないのに、弱者として生きることを強いられる優。周囲の大人(強者)たちは自分たちの気分と都合で、優から人生の選択肢を奪っているのです。それが、当たり前だというように…。
この、生きているのに死んでいる青年・優を演じている横浜流星さんの、生々しい表情が凄まじくリアルです。横浜さんは脚本の初期段階から藤井監督から意見を求められていたそうで、「優は藤井道人と横浜流星の分身にしたい」とまでいわれていたのだとか。
その期待に答え、横浜さんは〈優そのもの〉として映画のなかに存在しています。だからこそ、その空虚さや痛々しさ、行き場のない怒りがストレートに伝わってきて、観ているわたしたちは息苦しくなっていきます。
つかの間の夢でも、ないよりはマシなのか? それとも…。
主人公である優の周りには基本的にクズしかいません。よく負の連鎖といわれますが、こちらはクズの連鎖。しかし、それらクズにも、がんじがらめになっている背景があります。むろん、被害者だからといって弱い立場のものを傷つけていいわけではありません。怒りをもつなら強い者へ、現状に不満があるならそれを改善する方向に目を向けるべきです。それができるならば。
藤井監督は、「この映画には加害者がいない。全員がどこかで被害者だからこそ、他の誰かを傷つけてしまう」とインタビューで語っています。では、彼らを苦しめているものはなんなのでしょう?
物語では、周囲のクズから搾取されつづけている優の前にも、救いの手が差し出されます。黒木華さん演じる幼なじみの美咲が東京から戻ってきたことで、暗闇のなかでうずくまるように生きてきた優に小さな明かりが灯るのです。それをきっかけに物語は大きく動き出し、優は生きる喜びを手にしていきます。
よってかかって不幸にされていた優の暮らしが、たったひとりの人間の登場で一変する。その対比が興味深く、観ている側は美咲との再会によって人生を好転させた優の姿にホッと安心できます。とはいえ、それだけですべてがチャラになるほど、現実は甘くはないのですが―――。
本作では、伝統芸能である「能」が象徴的に用いられています。登場する演目「邯鄲(かんたん)」は、人生に迷った青年が旅の道中この世の栄華を謳歌するも、すべてはつかの間の儚い夢であったという話で、この物語のメタファーにもなっています。
つかの間の儚い夢でもあったほうがマシなのか。
甘美な夢を一瞬でも体験してしまったら、目覚めたときの現実がよりつらくなってしまうのか。
能は〈型はあっても、それをどう解釈するのかは受け取る側に委ねられている〉そうです。この映画を観たわたしたちは、どのように解釈すればいいのか―――、大きな課題を投げつけられているような気がします。
映画『ヴィレッジ』
2023年4月21日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸、TOHOシネマズ西宮OSなどで公開。