1980年代、痛烈な歌詞と独自の音楽性でイギリスのミュージックシーンを席巻したザ・スミス。彼らの解散ニュースが駆け巡った夜、熱狂的なファンはある行動にでる―――。
ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件を映画化した『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』が 12月2日(金)より全国ロードショー。一度でも音楽に救われたことのある人に贈る青春音楽映画、必見です!
大好きなバンドが解散したのに、普段と変わらない日常が流れているなんて…。
The Smiths(ザ・スミス)というバンドをご存知でしょうか? 1982年に結成したのち、1987年には解散。この短い活動期間に衝撃的なアルバムを4枚発表し、イギリスを中心に多くの若者たちを信者にしたマンチェスターのバンド。わたしが田舎で洋楽を聴きはじめたときにはすでに後期で、すぐに解散してしまいましたが、自虐と社会批判を痛快に盛り込んだ詩的な歌詞は当時の気分に響たし、グラジオラスをジーンズのポケットに入れてくねくね踊りながら歌うモリッシーは強烈に美しかった。日本の田舎に住んでマンチェスターなんてまったく知らない女の子にさえ、「わたしたちの音楽だ!」と思わせる引力があったのです。
『SHOPLIFTERS OF THE WORLD(ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド)』は、ザ・スミスのファンのなかで都市伝説のように語り継がれていた〈ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件〉を映画化した作品です。
舞台は、1987年のアメリカ コロラド州、デンバー。スーパーで働くクレアは、9月のある日、ザ・スミスの解散を知ります。熱狂的なファンで、服も部屋も車もザ・スミス一色だった彼女は、解散のニュースが流れても普段と変わらない日常が流れていることに傷つき、同じくザ・スミスファンであるレコードショップ店員のディーンに「この町の連中に(ザ・スミスの解散が)一大事だとわからせたい」と訴えます。
クレアをデートに誘うものの友だちが入隊するからと断られたディーンは、自分にひとつの計画があることを伝えます。一方のクレアは、入隊前のビリーとシーラ、パトリックのなかよし4人組で夜の街へ。ディーンは計画を実行すべく地元のヘビメタ専門のラジオ局に行き、銃をつきつけてこういうのです。
「ザ・スミスの曲をかけろ」。
ザ・スミス解散のニュースが駆けめぐった夜、それぞれのカタチで過ごす5人の若者たちは、誰もが傷つき、誰もが自分自身や将来について悩んでいます。まるで、ザ・スミスの曲のなかの登場人物のように…。
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“ディス・チャーミング・マン”はいう、「聴くと涙がでる曲は、おまえらを救う」。
地元のヘビメタ専門のラジオ局をジャックしたディーンは、DJに朝までザ・スミスの曲を流すことを強要し、彼はしぶしぶとそれに従います。そして、流れるザ・スミスの名曲たち。タイトル曲の「ショップリフターズ」をはじめ、「ゼア・イズ・ア・ライト」「ディス・チャーミング・マン」「心に茨を持つ少年」などなど20曲以上が使用されています。さらに、当時のインタビューやライブ映像が散りばめられているのも貴重。30年以上前に解散したバンドですが、いま見ても色褪せずにカッコいいです。
今作はザ・スミス解散ニュースをファクターに5人の若者の一夜を描いた青春音楽映画ですが、彼ら以上にキモとなるのはラジオ局DJであるフルメタル・ミッキー(なんていう名前!)なのではと個人的に感じます。
いきなり自分の番組を乗っ取られ、好みでもない音楽を流せと脅された彼は、しぶしぶザ・スミスの曲をかけはじめます。同じイギリスのバンドでもブラックサバスを敬愛している彼にザ・スミスの楽曲は理解しにくく、受け入れにくい。しかし、ディーンに指示されてアルバム発売の順番に楽曲を流していくことで、次第にその魅力に気づきはじめます。
そして、いつしかラジオ局の外に集いはじめたザ・スミスファン、さらには自身に銃を突きつけているディーンやクレアなどラジオを聴いている若者に対し、同じく音楽を愛してやまない大人として語りかけるのです。
「聞くと涙がでる曲は、お前らを救うと覚えておけ」
このほかにも彼はグッとくる言葉をいい、ディーンをはじめとした若者たちに小さくも確かな勇気を与えます。わたしには彼が、ザ・スミスの名曲に登場する“ディス・チャーミング・マン”のようにも感じました。
大好きなバンドが解散する。ファンなら天と地がひっくり返る大事件です。だからといって日常はそこにあり、自分の状況も大きく変わることはありません。でも、救いを求めていた音楽を失った夜を経験したのちに見える世界もあるはず。
ザ・スミスのファンはもちろん、音楽を愛する人々に見てもらいたい映画です。
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映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』
2021年12月2日(金)より、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、神戸国際松竹、TOHOシネマズ西宮OSなどで公開。