映画『砕け散るところを見せてあげる』 愛に終わりはあるのか?

「小説の新たな可能性を示した傑作」と称えられる竹宮ゆゆこのベストセラー小説を実写化した映画『砕け散るところを見せてあげる』。振り幅の激しいストーリーと真正面に向き合い、期待を裏切らない映像へと昇華させたのは、映画『天の茶の助』や『jam』などを手掛け海外でも高い評価を得ているSABU監督。その手腕で、中川大志・石井杏奈といった次世代を担う俳優の新境地を引き出しています。

愛するということはどういうものなのか? 2021年の今、心に問うてくる映画です。

 

ヒーローが少女を救う。ハッピーエンドの、その先には―――

物語の冒頭、18歳の真っ赤な嵐(北村匠海)がポーズをとって「俺の父さんはヒーローだった」と語り、その息子をやさしく見守る母(原田知世)が映し出される。そのはじまりで、この映画が単なるハッピーエンドで終わらないことを予感させてくれます。さあ、物語はどう進んでいくのか―――

 

主人公である濱田清澄(中川大志)は高校生。少し強い正義感をもっていますが、友だちにも恵まれて不自由なく学校生活を送れている“どこにでもいる高校生”です。そんな清澄はある日、“学年一の嫌われ者”と呼ばれている高校一年生・蔵本玻璃(石井杏奈)へのいじめを目にし、放おっておけない彼は彼女を救いだそうとます。次第に、玻璃のかわいさやおもしろさに気づいて惹かれていく清澄。玻璃も感謝する気持ちが憧れへと変わり、特別な感情を清澄に抱いていきます。そうして、2人の心の距離はグッと縮まって…。

 

あらすじを書いていくと、高校生の男女がピュアな恋を実らせていくボーイミーツガールの体をなしています。実際、気になる女の子のため「ヒーローになる!」と誓い、走りに走っていじめから彼女を救う清澄の姿は王道の胸キュン男子だし、その男子が現れたことで本来のかわいさを開花させる玻璃の成長は少女漫画風味。いじめを乗り越え、かわいいカップルが成立したと胸をなでおろせます。

めでたし、めでたし。と、ここで終われればいいのですが、物語はそう簡単ではありません。「絶対に負けない!」と誓うヒーローには、往々にして大きな試練がやってくるものです…。

©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会

 

なるほど、こうやって愛のカタチが連鎖していくのか。

ところで、さきほど紹介したあらすじのなかで清澄のことを“どこにでもいる高校生”と書きましたが、どこにでもいる高校生なんて実はどこにもいません。現に清澄も不自由のない学校生活を送りつつも頭上に虚無が住み着いていて、彼を取り込んでやろうと手ぐすねを引いています。自分自身の危うさを知っている清澄も、玻璃に出会って救われているのです。

 

出会うべくして出会った2人は、互いが相手を救うヒーローになります。

しかし、ヒーローが現れると良くも悪くもこれまでの状況にゆがみが生じ、そこから亀裂が入るもの。その亀裂は容赦のない現実を暴き、〈恐るべき危険〉のトリガーを引いてしまいます。

 

後半、物語はぐるりと違う表情を見せ、のどかな田舎町は不穏な現場へと一転。この世界線で、お互いを守るヒーローになれるのか? ギアを全開にして加速する2人の愛の強さと生々しさをドラスティックな映像美でイッキに魅せてくれます。

 

そして、衝撃の結末―――。

これをハッピーエンドと呼んでいいのか… 、それぞれ見解が異なるのではないでしょうか。わたし自身は、こういうカタチでつづいていく愛もあると納得できました。

ただ、愛が連鎖していくのなら、その愛の終わりはどこにあるのだろうか? と思わずにはいられないのです。

 

この映画のキャッチコピーは「愛には終わりがない―――」。

やっぱり、そうなのでしょうか?

 

最後に、主役の中川大志さん・石井杏奈さんはもちろんのこと、2人をサポートする井之脇海さん、清原果耶さん、松井愛莉さんのみずみずしい演技も見逃せません。とくに、田丸(井之脇海)が、暴走する清澄にかけるセリフは個人的にとても印象に残っています。

©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会

 

映画『砕け散るところを見せてあげる』

2021年4月9日(金)より、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、イオンシネマ茨木、MOVIX京都、イオンシネマ京都桂川、神戸国際松竹、MOVIXあまがさきなどにて公開。

公式サイト:https://kudakechiru.jp/index.html

masami urayama

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