日本アカデミー賞6冠をはじめ数々の映画賞を獲得した問題作『新聞記者』のスタッフが再び集結。新たに選んだテーマは、なんと「ヤクザ」です。これまでも日本映画ではたくさんのヤクザ映画が制作され、しびれるような名作も数多くありますが、スターサンズ×藤井道人監督が提示する『ヤクザと家族 The Family』はそれらと一線を画します。衝撃作か? 問題作か? まずは観て、自分はどう捉えるのかを考えてみてほしい映画です。
「家族」という視点からの「ヤクザ」とは。
最初に新作のテーマは「ヤクザ」と書きましたが、『ヤクザと家族』というタイトルが表すように「家族」もこの映画の大きな軸です。
3つの時代を切り取って、「ヤクザ」と「家族」のあり方を描いた物語のはじまりは、1999年。身よりもなく荒れた生活を送っていた19歳の山本賢治(綾野剛)は、ひょんなことから地元ヤクザの組長・柴咲博(舘ひろし)と出会い、父子の契を結びます。
自分ひとりで自暴自棄に生きてきた少年が〈家族〉という存在を与えられ、愛される対象となる悦びと、愛せる対象をもつ幸せを得る。たとえそれがヤクザであっても〈家族〉という拠り所を手にできたうれしさはいかほどだったか、映像からでもグッと伝わり、繊細に動く綾野剛さんの表情にも引き込まれます。
第二章は2005年、まだヤクザがヤクザとして生きていけた時代。強さを誇示でき、互いを愛するチカラが残っている〈家族・ファミリー〉で、山本は男をあげながら堂々と歩いています。女にも惚れ、親父や兄弟(=家族)を守るために命をかけて敵対する勢力と戦う勢いもある。映像は山本を通してヤクザのかっこいい方の側面をスタイリッシュに描きつつ、同時にその背後で変わろうとしている時代の影が忍び寄ってきている現実も映しだします。世の中というものは、渦中の人間を置き去りにして動いていくのです。
とはいえ、たとえ「時代は変わる」ことがわかっていても、人間や組織は染みついた体質からそうそう逃れることはできません。これまでのヤクザ映画でもそうであったように、多くの男たちは時代遅れといわれようと己を通します。ここで「The End」となればかっこいいまま幕を下ろせるのですが、人と家族の物語にはつづきがあります。
© 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
時は流れ、年号が令和に変わった2019年。第三章でヤクザは「反社」と呼ばれて社会からとことん排除され、生きることさえままならなくなっています。このパートからスクリーンサイズが横長シネスコから特大のIMAXに変わっているのですが、観ている側はなぜか窮屈さを感じます。ヤクザ=反社、人間として生きられない存在にまで追い込み、その者たちの拠り所である〈家族〉もカタチを維持することが許されない、現代社会の許容範囲の狭さが観ているこちらにも伝播し、息苦しく感じてしまうのかもしれません。
ヤクザという世界に一度足を踏み入れた者は、人生をやり直すこともできず、さらにはまわりの家族も巻き込まれていく無情。そこにも家族の愛はあるのに、それだけではどうにもならない容赦のない現実を、あたたかみを排除した映像が描きだしていきます。
山本と〈家族〉に救いはあるのか…
そこにある現実とするか? 違う世界の話だと切り分けるか?
モノの見え方は、見る側の角度によって大きく変わります。映画『ヤクザと家族』もヤクザおよびその家族の視点で見ると、やるせない物語です。しかし、2021年に一市民として暮しているわたしの視点から見ると、彼らの扱いを「ひどいな」と思っても、自分事化はできません。リアルには“絶対に関わり合いたくない存在”なので、できるだけ遠く離れた違う世界の話にしておきたい気持ちもあるのです。
前作『新聞記者』でも感じましたが、この『ヤクザと家族』も見終わったあと“自分の気持ちの置きどころ”にとても迷う映画です。「こうだよね」と思うと同時に「違うよね?」と否定したくなり、「でも、そういうものだよね」と無理から折り合いをつけたくもなる…。正直なところ、これを書いている今も自分の気持ちのなかにある空間にモヤっとした煙がくすぶりつづけていたりします。
「ヤクザ」と「家族」の存在を、映画の世界だと切り分けるか?
今、同じ社会で生きている人のシビアな現実と見るか?
エンターテインメントを通して、答えのない問いに自問自答する。それもひとつの映画の醍醐味ではないでしょうか。
© 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
映画『ヤクザと家族 The Family』
監督・脚本:藤井道人
出演:綾野剛
尾野真千子 北村有起哉 市原隼人 磯村勇斗
菅田俊 康すおん 二ノ宮隆太郎 駿河太郎
岩松了 豊原功補 / 寺島しのぶ
舘ひろし
配給:スターサンズ/KADOKAWA
2021年1月29日(金)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、
あべのアポロシネマ、T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、
OSシネマズミント神戸ほか 全国ロードショー!